研究課題/領域番号 |
22K19978
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
室屋 安孝 神戸女子大学, 文学部, 教授 (10964017)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | インド仏教論理学 / ダルマキールティ / ヴァーダ・ニヤーヤ / シャーンタラクシタ |
研究実績の概要 |
ダルマキールティの『ヴァーダ・ニヤーヤ』は論議の規定にかかわるインド古来の伝統をふまえ、論議の望ましいあり方を仏教論理学派の認識論・論理学によって抜本的に考察した著作である。近年、サンスクリット語原典の初版本の基礎となった写本の利用状況が改善し、新出写本が同定されるという進展があったため、原典を再校訂する必要が高まっている。 本研究は、研究代表者によるゴル寺旧蔵写本の再調査をふまえ、新出のデプン寺旧蔵写本を利用し、二本の写本の相互の関係性の解明を前提に既刊本の再評価を行うことで、新たな校訂本の作成を目指すものである。同時に、翻訳研究を行うことによって、解題をふくめた総合的研究のための環境を整備することを企図している。 初年度となる令和4年度は、校訂作業の流れを確立するため、『ヴァーダ・ニヤーヤ』の冒頭部について、デプン寺写本の翻刻を用意し、ゴル寺写本との比較を行った。また、両写本の異同から批判的に校訂されるべき本文を確定し、校訂上の問題の所在を明らかにするために、チベット語訳との比較をおこない、チベット語訳とサンスクリット語写本、さらにシャーンタラクシタによる注釈との本文の異同を精査した。同時に、諸資料に残された本文を総合的に検討することで、伝本相互の関係性や個別の写本伝承についての作業仮説、本文再建の可能性といった校訂にかかわる諸問題についての考察を行った。 考察の結果は論考としてまとめ投稿した。またシャーンタラクシタ注の独自の議論について国際学会で研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『ヴァーダ・ニヤーヤ』の冒頭部について、サンスクリット語写本、特に第二写本の翻刻を作成し、1935-1936年出版の初版本、1991年出版の批判校訂本との比較を行った。また、チベット語訳の諸版本の校合とおこない、ワーキングエディションを作成し、それをもとに、サンスクリット語原典との異同や、批判校訂本(1991年)の批評欄、訳注などをふくめ、幅広い視点から第二写本の独自性について考察することができた。 また、2種の刊本が依拠した第一写本と、新たに使用可能になった第二写本の本文の相異から、第二写本の資料的価値について作業仮説を設定し、今後の校訂方針にかかわる一定の見通しを構成することができた。 令和4年8月には、シャーンタラクシタによる注釈のもつ独自の派生的議論のなかから、非認識因の文脈で引用されるニヤーヤ学派の失われた作品からのテクスト断片と、それに対する仏教認識論学派の反論をとりあげ、第6回国際ダルマキールティ学会(韓国・高麗大学およびzoomによるハイブリッド開催)での研究発表を行なった。 令和4年度末には、『ヴァーダ・ニヤーヤ』写本について考察した結果をまとめた論考を用意し寄稿した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に行なった二本のサンスクリット語写本の関係性についての作業仮説を検証すべく、2年目となる令和5年度は、引き続き、写本相互の異同の比較と、チベット語訳やシャーンタラクシタ注に示される引用を考慮した本文批判を行い、校訂作業を継続する。 校訂作業と同時に翻訳の作業に着手し、本文の確定に取り組む予定である。また、チベット語訳の諸版本の校合をおこない、ワーキングエディションの作成を継続する。 以上の一次資料の整備を行いながら、二次資料や研究論文の収集と分析も視野にいれ、校訂および翻訳に必要な総合的研究のための情報収集のための調査を行う。 国内および国外の研究協力者と検討中の諸問題についての成果を共有し、意見交換をふくめた会合をもつ予定である。 翻訳研究の成果については、論文執筆と学会やワークショップでの発表等を通じ、成果の公表に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に執行予定であった旅費を使用しなかったため次年度の使用額が生じたが、令和5年度は国内や海外の研究協力者との会合の期間および回数を調整を行い、旅費及び物品費等として使用する予定である。
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