研究課題/領域番号 |
22K19981
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
袴田 紘代 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (40736477)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | ナビ派 / 芸術座 / 装飾 / 世紀末 / 演劇 / 象徴主義 / 美術史 |
研究実績の概要 |
本研究は、ナビ派と象徴主義の劇団「芸術座」を核とした文芸サークルにおける「装飾的」なる概念の考察を通じて、当時の美術と演劇の理念的交差を検証することを目的とする。当該年度は芸術座に関わった象徴主義作家と、モーリス・ドニ(1869-1940)を中心とするナビ派画家の一次資料の確認、作品調査を現地で進めるとともに、国内外での文献収集も継続した。 コロナ渦の影響により延期していた海外調査を、2023年10月にフランスおよびスイスにて実施した。美術、舞台芸術、文学を専門とする各図書館において日本で入手できなかった一次資料および二次文献を精査したことで、芸術座サークルの実態について新たな知見が得られた。また、モーリス・ドニのカタログ・レゾネ編纂室やドニ美術館研究センターでの調査および研究者との意見交換により、ドニが関わった芸術座での上演にまつわる史資料の存在を複数確認するに至った。 くわえて、現地で訪れたオルセー美術館常設展やエルミタージュ財団での「ヴュイヤールと日本」展、ナビ派の大収集家であるジョセフォヴィッツ・コレクションの競売プレヴュー(クリスティーズ・パリ)は、芸術座に参加していた1890年代初めのナビ派作品を多数実見できる貴重な機会となった。 ほかにも国立西洋美術館で企画・構成を担った展覧会「憧憬の地 ブルターニュ」(2023年3月18日-6月11日)には芸術座に参加したゴーガン、ポン=タヴェン派、ナビ派画家の作品が多く出品され、一連の展覧会業務を通して彼らの1890年代における関係性や芸術理念について知見を深めることができた。 研究成果の公表としては、本課題の成果にもとづく査読つき論文1本を発表した。また担当展覧会の関連講演会や、同展にまつわる大学や文化施設での招待講演・招待発表の場でもナビ派画家を取り上げることで、成果の幅広い社会還元に務めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は国内図書館や美術館での文献・作品調査に加え、2023年10月に実施したヨーロッパでの現地調査によって、未入手の一次資料・文献の確認および複写、未見作品の実見調査を遂行することが叶い、研究において重要となる同時代史資料の収集に進展があった。 昨年度までに進めた調査と、今年度の現地調査によって得られた成果の一部は、「象徴主義演劇論における「文様」と「装飾」: 19世紀末フランスの美術と演劇の交差をめぐる試論」と題する論文にまとめて『国立西洋美術館研究紀要』第28号(2023年、査読あり)に寄稿した。本論では象徴主義の演劇論として、「装飾」や「文様」の語を導きの糸に詩人ピエール・キヤール、戯曲家ピエール・ヴァラン、美術批評家アルフォンス・ジュルマンの言説をたどり、彼らの理念の美学的な共通性や相違点も含めて論じた。この研究成果は、当時の演劇理念とナビ派画家たちの芸術理念との交差について考察を進めていくための基盤として位置づけられる。以上の理由から、当該年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策に関しては、当初の研究方法や計画から大幅な変更を加える予定はない。当該年度に実施した現地調査における収集資料・データの整理と分析を進めるほか、2024年度にもフランスで現地調査を行う予定である。実施の時期と期間に関しては、昨今の不安定な世界情勢を考慮に入れつつ、美術館業務や育児等の諸スケジュールも勘案しながら判断する。 研究成果の発表としては、これまでの調査で収集した史資料・画像の整理や分析を進め、論文として投稿することを目指す。また、本研究課題で取り上げられる内容は日本における認知度が低いため、美術館での活動にもその成果の一部を反映させ、広く社会に向けて発信するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度も翻訳・校閲ないし業務補助の発注に至らず、これら人件費・謝金に割り当てる予定であった資金が手付かずで残された。これらの資金は来年度に繰り越す。ただし来年度も人件費・謝金を全額使用するような翻訳・校閲の発注予定はなく、その資金の一部を研究の遂行にあたって優先されるべき海外調査のための旅費に充填したい。 物品費に関しては、文献購入を立て替え払いによって行ったため、2024年度扱いで会計処理される予定である。残存した資金は来年度における追加の文献購入に当てるとともに、旅費にも充填することで、昨今の著しい渡航費の高騰や円安による影響を補う予定である。
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