研究実績の概要 |
本研究がめざす最終的な目的は、「芭蕉の俳風」を基準とする従来の俳諧史を、芭蕉と弟子たちが真に追究した「生き方としての俳諧」の視点によって再構築することであり、そのための基礎研究として、惟然の発句・連句作品の網羅的な収集・整理と分析評価を行なうものである。 初年度にあたる2022年度は、近世の版本または写本を参照し、惟然作品の収集を行なった(ただし、原本の写真を文献複写等で取得できる場合はその方法によった)。このうち天理大学天理図書館における文献調査では、従来の全集類には収録されていない発句を発見した。一般には惟然の作品として知られていない句であったため、通釈および成立事情・季等の解説を加え、論考として発表した(「惟然「南風口の」句考」『俳文学研究』79号, 2023年3月)。 作品の収集と並行して分析評価の視点についても研究を進め、進展があった。広く海外の俳諧・俳句研究にも目を向け、調査を進めた結果、ドイツの日本文学研究者Ekkehard Mayが示した惟然発句注釈の視点が、本研究に大いに裨益するものであることがわかったため、その特徴と意義を論文「Ekkehard Mayの惟然発句注釈――ドイツにおける俳諧(俳句)受容」(『雲雀野』45号, 2023年2月)において論じた。 また時期は前後するが、2022年9月24日に開催されたシンポジウム「「かるみ」の新展開」(俳文学会東京研究例会)にパネリストとして登壇し、著書『惟然・支考の「軽み」―芭蕉俳諧の受容と展開』(武蔵野書院、2021年)で論じた芭蕉の表現理念「軽み」について、発表者の中森康之・谷地快一、会場の参加者との意見交換を行なった。
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