【最終年度に実施した研究の成果】 最終年度にあたる2023年度は、前年度から引き続き、近世の版本または写本から惟然作品を収集するとともに、全作品の整理と分析評価を行なった。このうち作品収集については、天理大学天理図書館・国立国会図書館・国文学研究資料館での文献調査によって従来の全集類には収録されていない発句10句を発見した。現在、これらに連句作品を加えた全作品のデータベースを構築中であり、成果公開用に作成したホームページにおいて順次公開を進めている。作品の分析評価についても進展があり、従来「邪路」として批判されてきた「無分別」が、実は惟然の作品評価にあたり非常に重要な概念であることを明らかにし(論文「惟然の「無分別」」、『俳文学報』57号)、さらに芭蕉と門人たちが「乞食」「貧楽」「軽み」などと呼んだ「生き方の理想」に着目した作品研究の重要性を指摘した(「俳諧研究における「生き方」という視点の可能性」『日本文学文化』23号)。 【研究期間全体を通じて実施した研究の成果】 研究期間全体を通じた研究成果は以下の通りである。(1)現在入手できる惟然の発句及び連句を全て収集した。(2)作品収集の成果をデータベース化し、インターネット上に誰もが利用できる形で公開した。(3)海外の俳諧・俳句研究の特徴とその作品分析における意義を明らかにした。(4)惟然と芭蕉が「乞食」「貧楽」「軽み」「無分別」などと表現した「生き方の理想」に着目した作品研究の重要性を明らかにした。 以上の成果は、従来の「俳風」至上主義の俳諧史を「生き方としての俳諧」という視点から再構築する基礎となるものであり、俳諧作品の本質的価値、現代的意義の解明に対しても重要な意義を有するものである。
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