今年度は、ラジオでの作家の活動に焦点をあて、具体的な作品の分析を行った。ジャン・ティボードーのドキュメンタリー『国際サッカー試合のルポルタージュ』の分析、そしてペレックのラジオ作品の分析である。分析の中で、特にペレックが行ったラジオ作品の制作の中で、テクストからの影響が多く存在することも確認できた。1970年代後半にはテクストで扱われた主題がラジオ制作の場にも表れていくことも明らかにした。 本年度の成果としては、2023年6月7日にパリのアルスナル分館で、パリ=シテ大学とソルボンヌ=ヌーヴェル大(パリ第3大)主催で行われたセミネール口頭発表を挙げることができるだろう。1977年に制作されたラジオ番組についての分析を行い、その中で、ペレックの友人でもあった詩人ジャック・ルーボーの存在がルーボーとは本来関係のないはずの引用の中に隠れている点に着目した。詩人を示唆する引用の中に、喪や可能世界といったテクストの中に頻繁に表れる主題が隠れている点を分析し、ルーボーとペレックが間接的にルーボーを示唆する引用によって、幾枚かの鏡を介して鏡合わせの関係になっている点を明らかにした。そして、この鏡合わせの関係はラジオから波及して、テクストにも表れている。あるテクストの中でルーボーとほかの友人のイニシャルで2人の可能世界を描くテクストがある。このテクストで描かれた2人の可能世界には、ペレックの生と関係あると言わざるを得ないものも存在しており、ラジオ作品で示された間接的な鏡合わせの関係がテクストでも展開されている。以上がラジオとテクストの相互性を示す例の一つであり今年度の成果である。
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