全体として、まず、研究期間内に公刊された論文は1本(日本語)だけである。しかし、同研究期間内に受理され、令和6年度中に出版される予定の論文は2本(いずれも英語)ある。また、日本語論文は大学紀要に掲載されたものであるが、英語論文はいずれも、イギリスの出版社から査読付きで刊行される、高い客観的評価を得たものである。次に、研究期間内でおこなった学術口頭発表は4件ある(日本語2件と英語2件)。うち2件は招待を受けたものであり、そのうちの1件は海外(ポーランド)で開かれた大規模な国際学会でのシンポジウムにおける発表である。 具体的には、刊行済みの論文では、イギリス・ロマン主義時代の詩人ウィリアム・ワーズワスによる措辞の特徴とその日本語訳の歴史および妥当性に関して、実証的な研究成果を発表した。長らく学者内では人口に膾炙していた語句のひとつを取り上げ、その和訳の歴史を丹念に辿ったうえで、根本的な再解釈の必要性を指摘した。最終的には新たな訳語の提言をおこない、論述の方向性自体がロマン主義文学研究における新たな道しるべとなりうる可能性を示唆した。 また、4件の口頭発表においては、ロマン主義時代の画家B・R・ヘイドンがときの文芸サークルの発展において果たした役割を実証的に論じたり、同時代の詩人ジョン・キーツの作品における当時の美術作品からの影響を指摘したりした。いずれも、未発表の手稿からの引用や長らく等閑視されていた資料からの発見内容を含む、学術的意義の高いものと位置づけられる。 総じて、ロマン主義時代のイギリスにおける文学と美術の領域的横断性を多面的に検証することができたことをここに報告する。
|