研究課題/領域番号 |
22K20018
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
川崎 美穏 愛知教育大学, 教育学部, 助教 (60965010)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 武家 / 千句連歌 / 五山僧 / 上杉家 / 直江兼続 / 近世初期 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、連歌・和漢聯句及び関連学書の分析を通じ、それらの知が戦国時代の武家へどのように伝播し、享受されたかを究明することである。その際、上杉氏の文芸活動と各地の武家と頻繁な交際をした里村紹巴を対象とした。 【成果1】近世初期の代表的な文化人近衛信尹の千句連歌成立の背景と武家平野長泰との関与を明らかにした。「『近衛殿千句抜書』攷―近衛信尹の独吟連歌『三藐院千句』との関係を中心に―」(『国語国文學報』81号、2023年3月)では、法政大学市ヶ谷図書館正岡子規文庫に蔵される『近衛殿千句抜書』を取り上げた。その識語と各種日記の検討から、近衛家に度々参上していた遠江国の平野長泰の所望を契機に書写された経緯が窺えた。平野氏は織豊期から江戸前期の有能な武将として知られる。信尹は、父前久の時代から紹巴と交流を保ちながら連歌、聯句、誹諧といった座の文芸に、「杉」の一字名を号して意欲的に関わった人物である。信尹・紹巴・武家平野氏の関係性が抽出できた点で研究の目的を達成し得た。 【成果2】戦国期に五山僧の知がどのように武家の直江兼続に継承されたのかを明らかにした。「中世末期武家の五山文化継承―国宝上杉家文書『文鑑』の成立をめぐって―」 (『国文学研究資料館紀要 文学研究篇』49号、2023年3月)では、中世末期に成立した『文鑑』(米沢市上杉博物館所蔵「国宝上杉家文書」)を対象に、その成立過程の分明を目指した。該書は、室町末期の臨済宗妙心寺派の僧南化玄興が、戦国大名直江兼続の所望により、慶長四年に書き贈ったとされる一書である。だが、『文鑑』の引用母体に関する明確な比定がされてこなかったが、南化が関与した『巻而懐』(東京大学史料編纂所所蔵)、『四六彙解』、『蒲室集鈔』といった本と引用箇所が重なることを明らかにした。地方武家による五山僧の学問継承の実態を解明する上で重要な資料であると位置づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①『直江韻書』(上杉神社蔵)の閲覧調査と全丁の撮影を行う。:先方との調査日程の調整中。 ②『直江状』の偽文書説の再検討のために伝本の収集を行う:『文選』摂取の糸口を捉えた。 ③『紹三問答』の内容分析から連歌師紹巴と連歌作者三甫の分析を行う:伝本の収集、整理、奥書の検討は終わり、内容の分析を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
3つの計画のうち、『直江韻書』の調査について、当初2022年度中の撮影終了を予定していたが、撮影スケジュールを変更し、2023年度中に全丁の撮影終了を目指す。『直江状』および『紹三問答』の分析と成果発表は2023年度中に終えられる見通しである。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:上杉神社における撮影実施の調整がつかなかったため、その分の宿泊費・人件費で支出する機会がなかったため。また、各種学会・研究会も2022年度中はコロナ禍の影響があり、慎重な判断のもと会場開催のものが少なく、出張費としての支出が予定より少なかったため。 使用計画:今年度は夏季に調査出張が入ること、感染症法の見直しにより学会も従来通りの開催となることが見込まれるため、計画通りの使用が可能となる。また、研究上必要な図書整備費で予算の大部分を支出する予定である。
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