【最終年度の研究成果】 ①山形県上杉神社蔵の現地閲覧調査が終了した。その結果直江の漢句の特性と韻書との影響関係を明らかにする素地が整った。また、現地での書誌調査により表紙の質感、料紙、想定状況などから当該資料の伝来素性を再検討する必要性を確認した。②連歌論書『紹三問答』の真偽を検証し、当該資料が偽書ではなく三甫の手による論書であることを、関連書状の写しを分析することで明らかにし、室町期の連歌史上看過できない作品であると位置付け、その成果を俳文学会全国大会にて発表した。 【研究期間全体の成果】 中世後期から近世初期の武家文芸の実相を戦国期を代表する武家上杉氏の文芸活動を中心に、創作時に傍に必携していたと思しい『直江韻書』及び、当時名を馳せ、武家らの指導的立場にあった連歌師里村紹巴を批判する論書『紹三問答』の分析を通して、実作と学書との影響関係、連歌師と武家との社会的役割を解明した。 【今後の研究の展開】 今回の研究期間に閲覧した『直江韻書』のデータを礎に内容の検討及び、上杉氏以外の武家との知的教養の相違を明らかにすることで、中世期から近世期の知の総体の輪郭を描くことを試みる。また、偽文書説が唱えられてきた『直江状』と韻書の内容との相関についても検討を加える。なお、連歌論書と俳諧論書との影響関係についても未だ分明ならざる点が多いため、今回研究対象とした『紹三問答』がその後の俳諧論書の展開にどの様に関わり、影響していたのかという点からの考察にも及ばせたい。
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