本研究では、以下三点の問題解明に取り組んだ。①『愚管抄』の写本はいかに分類が可能か、いかなる伝本系統図が描けるか、②『愚管抄』の古い姿を多くとどめているのはどの写本なのか、③『愚管抄』はどのように読まれ・伝来したのか。上記三点を考察する意義は、中世文学史・思想史を究明する上で必読文献である『愚管抄』の研究基盤を構築する点に認められる。『愚管抄』の基礎的研究に限っては半世紀余りほぼ進展が見られず、近年の坂口太郎氏(高野山大学)の研究によってようやく光が当てられた分野である。本研究は氏の研究を承け『愚管抄』研究の基盤を固めつつ、中近世における読者の歴史をも見出すことを目指したものである。
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