研究課題/領域番号 |
22K20026
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
軽部 利恵 実践女子大学, 文学部, 助教 (50968237)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 万葉仮名 / 表記 / 漢字 / 文字 / 唐招提寺文書 / 万葉集 / 木簡 / 仏足石歌 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、(1)唐招提寺文書「家屋資財請返解案」についての研究、(2)上代特殊仮名遣いの「違例」をめぐる「資料性」についての研究を進めた。 (1)について、唐招提寺文書「家屋資財請返解案」は、「宣命書き」と呼ばれる、自立語が大字表記され、助詞・助動詞が仮名の小書きされる表記スタイルの一つである。文書が作成された具体的なシチュエーションや、仮名書きを含んだ表記スタイルが採られている理由を明らかにするため、まず、漢字列で書かれる語句(漢語や和語)の意味の分析を進めた。特に「厶甲」という語句が現れる他文献を調査し、「厶甲」の現れる文脈やその意味を整理・検討した。 さらに、当該文書については、文章・文体レベルの問題から語句レベルの問題(漢文訓読や和語・漢語、丁寧表現など)といった、様々な論点があることが分かり、それらを整理した。これにより、当該文書の研究が、様々な方面へ広がりを持つものであることが確認された。 (2)については、仮名書きを含む上代文献の中で「資料性」を把握していくため、上代特殊仮名遣いの「違例」をめぐって調査・分析を進めた。特に、歌が仮名で書かれる、万葉集、木簡、仏足石歌といった文献に着目して、上代特殊仮名遣いの「違例」を取り出し、各文献の資料的特徴と「違例」の現れ方の関係を記述した。上代特殊仮名遣いの「違例」の整理・分析は、個々の資料の性格と表記スタイルとの関係を明らかにする足掛かりになることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」と評価する。順調に進展していると評価できるその理由としては、次のことによる。 これまでに、唐招提寺文書「家屋資財請返解案」だけでなく、同じ一次資料(生の言語資料)である木簡、仏足石歌、さらには編纂物である万葉集といった幅広いジャンルの文献を調査することができている。これにより、今後、上代文献における「資料性」の問題をより広い範囲で明らかにすることができるものと考えられる。 ただしこれまでの研究を通して、唐招提寺文書「家屋資財請返解案」については、当初想定していたよりも、さらに調査・分析・検討を深めていく必要があることが明らかになった。当該文書については令和4年度中の論文投稿を予定していたが、令和5年度中の論文投稿を予定している。 また、計画段階では、唐招提寺文書「家屋資財請返解案」のほかに、「宣命書き」の表記スタイルがみられる「他田日奉部直神護解」や「有年申文」といった紙の文書を中心に研究を遂行していく計画であった。しかし、仮名で歌が書かれているという点が共通する、万葉集、木簡、仏足石歌をも研究対象とする方針を固めている。 以上の理由から、進捗状況はおおむね順調であると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、引き続き文献の調査・分析・検討を進めていくこととする。具体的には、令和5年度中に、(1)唐招提寺文書「家屋資財請返解案」について論文を執筆し、学術雑誌『訓点語と訓点資料』(訓点語学会)に投稿する、(2)上代特殊仮名遣いの「違例」をめぐる「資料性」の研究について論文を執筆し、学術雑誌『実践国文学』(実践国文学会)に投稿する予定である。 (1)については、当該文書の文章中に認められる漢字列について、和語と漢語の違いや漢文訓読の観点から論じ、また「厶甲」という語句について、当該文書の文脈に即した意味内容を記述する。そのうえで、文書が作成され、使われた具体的なシチュエーションを想定することで、当該資料がどのように受信され、「宣命書き」の表記のスタイルは受信のされ方にどのように関わるものであったのか、これらを検討する。 また、「宣命書き」については、馬場治『宣命体の研究――表記と文章の諸相――』(令和5年2月、汲古書院)が出版されている。以上の先行研究についても精読・精査しなければならず、その結果をもとに「宣命書き」の表記スタイルのあり方について結論付けていく必要がある。 (2)については、これまでに抽出した上代特殊仮名遣いの「違例」群について、万葉集、木簡、仏足石歌のそれぞれについての現れ方を引き続き記述する。それにより、「違例」の現れ方と資料的な性格、およびテクストの受信のされ方との関連を包括的に検討する。上代文献における「資料性」を明らかにする手立てとする。 以上の2つの観点を柱として、上代文献における仮名書きの現れ方と、文献の資料的性格との関係性を明らかにし、奈良時代の文字資料における「資料性」というものを明確に記述することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は、引き続き国語学関連・古文書学関連の学術書を購入する必要があり、また学会発表(兵庫県)と文献調査(奈良県)を予定しているため、その旅費として助成金を使用する。さらに、ソフトウェアなど、パソコン周辺の設備環境を継続して整える必要がある。
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