一部の再帰代名詞は、ある一定の解釈のもとで長距離束縛を許す、つまり別な節から先行詞を選択することができると言われている。本研究の目的は、特に長距離束縛の分析についての近年の発展を念頭におき、どのような再帰代名詞がこのようなふるまいを見せるのかを明らかにすることであった。研究期間全体を通して、主に日本語の再帰代名詞「自分」「自分自身」「彼/彼女自身」の分析を行い、その分析を言語類型論的な観察に敷衍する形で研究を進めた。この結果、特定の内部構造をもった再帰代名詞のみが、上記のようなふるまいを見せることが明らかになった。 本研究の成果は、研究期間全体を通して国際学会での発表3件、国際誌論文3本の形(内1本が査読付き)で発表したのに加え、さらに国際論文誌1本が現在条件付き採択で改訂中となっている。 特に2023年度(最終年度)には、2022年度末に実施した学会発表の内容をproceeding論文としてまとめて発表した。また、2022年度の研究において日本語のデータから得られた分析を他言語に敷衍した。この結果、提案した分析が先行研究において得られている「ある言語が長距離束縛を許す再帰代名詞と許さない再帰代名詞を持っている場合、長距離束縛を許さない代名詞は、少なくとも長距離束縛を許す代名詞以上には形態的に複雑である」という観察を適切に捉えられることが明らかになった。この成果は、査読付き国際誌への投稿論文としてまとめた(上記の条件付き採択となっている論文に該当)。さらにこの成果を、長距離束縛にかかわる接続詞領域の構造、長距離束縛において鍵となる概念の1つである「共感性」といった関連するトピックについてのいくつかの研究(共同研究含む)に発展させた。
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