本研究は、日本の平安時代中期にあたる10世紀後半の詔を読解することにより、起草者である紀伝道文人がどのように作文したか、あるいはどのような思想を受容し、国家観の反映である詔を構想したか、という観点から考察するものである。 2023年度は、前年度から進めている平安時代中期の詔の注釈作業を継続し、うち慶滋保胤が起草した詔2首について論考をまとめて発表した。また、関係するシンポジウム・学会発表等に出張し、情報収集に努めた。 この論考は、『本朝文粋』巻2所収の、慶滋保胤が永観元年から翌年にかけて起草した2首(「改元詔」と「令上封事詔」)を比較検討したもので、「令上封事詔」の特徴として『国語』および『白氏文集』の策林に多くを依拠していることを指摘した。そのうえで、特に『白氏文集』の策林の思想を反映しようとすることは、紀伝道文人である慶滋保胤にとっては自然な発想であったことと、部分的ではあっても花山朝の国家運営において白居易の思想を取り入れようとしており、それが意見封事を実施すること自体の性質に裏打ちされていることなどを論じたものである。 また、2022年度に検討した菅原文時「二条前后復本位詔」では、復位の詔の構成が日中で異なっていることと、藤原高子への復位における個別的な事情について考察した。 このように、詔の一言一句を注釈的に検討することにより、詔の背景となる思想や、中国の詔との差異を明らかにすることにある程度成功したものと考えている。
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