研究課題
研究活動スタート支援
本研究は、日本近代文学の戦後作家が青年期に仏教的言説をどのように受容し、後の創作活動に活かしたかを検討するものである。主な対象作家は大西巨人と野間宏とした。大正期から昭和初期まで、倉田百三『出家とその弟子』に代表される修養思想としての仏教文化が知識青年に影響を与えた。マルクス主義的な社会改良が不可能な戦時下、親鸞は民衆とともに活動した実践者として、道元は知的研鑽の体現者として、大西や野間ら知識青年の精神的立脚点となった。
日本近現代文学
個別の作家や創作物に限定して考察するのではなく、教養形成期の作家たちを共時的に取り巻いた仏教言説の影響に着目したことは新しい手法である。これにより、仏教が戦争参与を強める一方、戦後に作家となる知識青年は時局との緊張関係の中で、望ましい社会参画や真理探究のロールモデルとして宗祖イメージを構築しようとした傾向がわかった。宗旨理解の正統さは問題とせず、社会で受容された仏教イメージを重視し前述の傾向を明らかにしたことが、本研究の独自性である。