本研究課題は、豊臣秀吉の伝記的資料である太閤記物散文作品群の諸書・諸本を収集し、権力者との関係に注目しつつ分類・整理して体系化することを目指すものである。具体的には、『天正軍記』『豊鑑』『豊臣秀吉譜』『川角太閤記』『太閤記』の五書を対象とする。 本年度は前年度の『太閤記』研究に関する反省を踏まえ、山崎の戦いに関する表象の分析を行なった。ここで注目すべきは近世後期に成立した『絵本太閤記』である。特に今年は『絵本豊臣勲功記』の研究を中心とし、天理図書館に所蔵される原本資料を取りあげてその価値を闡明した(「天理図書館蔵『絵本豊臣勲功記』について」〈2020年度~2023年度 科学研究費補助金(基盤研究(A)研究成果報告書) 戦国軍記・合戦図の史料学的研究(課題番号 20H00031)〉)。 さらに、住吉大社に奉納されたと伝わる連歌巻を調査し、その連歌巻が秀吉によるものではないこと、毛利家が興行したものと思われることを論じた(コラム「住吉社奉納連歌巻をめぐって」(「住吉さんと太閤さん」第6回、住吉大社社報『住吉っさん』第40号、2023年7月)を提出した。 その他、在外資料として豊臣秀吉関連典籍を調査した。顕著な成果として、2021年に国内で発見されたロレンツォ・クラッソ著『著名武将列伝』の断簡(秀吉部分)をオーストリア国立図書館で見出した。その他、オーストリアの各地で秀吉関連の文献を相次いで発見した。いずれも17世紀ごろのもので、近世前期欧州における太閤記物の展開として特筆すべきケースと考える。本成果の一部は、コラム「オーストリアの秀吉関係絵画群をめぐって(上)(「住吉さんと太閤さん」第七回)、住吉大社社報『住吉っさん』第41号、2024年12月)として公表した。
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