研究課題/領域番号 |
22K20052
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 美佳 九州大学, 人文科学研究院, 助教 (30962849)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 植民地期朝鮮 / 朝鮮総督府 / 読本 / 青年 / 作文 / 出版 |
研究実績の概要 |
1920年代における朝鮮の出版文化の展開過程を考察するうえで、本年度は「読本」に着目して分析を進めた。 当時の朝鮮では民間の出版社から各種の読本が刊行されていたが、とくに1920年代初頭に相次いで刊行された青年読本の代表的な存在である『二十世紀青年読本』(1922年)および『現代青年 修養読本』(1923年)について考察し、「植民地期朝鮮における民間読本―1920年代初頭の青年読本を中心に」(『韓国朝鮮の文化と社会』21、2022年10月)にまとめ、発表した。本論文では、各読本の成立過程をたどりつつ、「青年」を民族の将来の担い手とみなし啓蒙したものよりも、処世術の実用書として売り出されたものの方が人気を博していた点を明らかにした。あわせて、1920年代中盤以降の朝鮮で青年向けの実用書が刊行されるようになる背景に日本の出版界の存在があった可能性を指摘した。 次に、作文関連の読本に焦点を当て、今日の作文教材の原型と評価される『中等朝鮮語作文』(1928年)について分析し、研究成果を「『中等朝鮮語作文(1928年)の成立過程―1920年代における朝鮮出版界の一断面」(『年報朝鮮学』25、2022年12月)および2023年2月に福岡大学で開催された第8回福大韓国学シリーズ(国際シンポジウム)で発表した。具体的には、朝鮮総督府が編纂した教科書に対する批判の声が高まるなかで、当時の朝鮮で理想とされた教科書像が反映された『中等朝鮮語作文』は、高木武『中等作文教本』(1924~1925年)など同時期の日本の作文参考書を参照、翻訳し、そこに独自の要素を付け加えて再構成されたものであったことを示した。 さらに、今後の研究に備えて京都大学や神戸市立図書館などで1920年代における朝鮮の雑誌の調査・収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス等の影響で当初予定していた国外での資料調査は実施できなかったが、可能な範囲で調査と分析を進め、研究成果を二篇の論文で発表することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をふまえ、新たに1920年代の朝鮮の雑誌を考察対象として、同時期の日本の出版界との影響関係を考慮しつつ朝鮮出版文化の展開過程を分析することが今後の課題である。とくに大衆化という観点から、同時期の日本と朝鮮の大衆誌を調査・収集したうえで考察を進め、本研究の成果を論文にまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、国外での資料調査を実施できなかったため。来年度は当初の計画よりも多くの資料を使う予定のため、資料購入費用に充てるつもりである。
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