研究最終年度にあたる2023年度には、2023年8月にパリにあるフランス・アジア研究所で集中的な史料調査を実施した。当該研究所が所蔵するパリ外国宣教会の史料には、1860~70年代に阮朝とフランスの接触を仲介したフランス人宣教師やベトナム人キリスト教徒に関する文書が大量に含まれている。調査ではこれら文書のうち、マイクロフィルム化されたものを中心に閲覧・撮影することができた。また2024年の3月には、前年3月の調査から引き続き、ハノイの国立第一公文書館および漢喃研究院において、研究課題に関する未公刊の漢文史料を閲覧・複写した。 研究期間の全体を通じてみたとき、本研究で得られた最大の成果は、ベトナム・フランス双方の公文書館で大量の未公刊史料を収集しえたことである。とりわけ、ハノイの国立第一公文書が所蔵する阮朝の宮廷文書(阮朝シュ本)を清査し、開港場となったハノイ・ハイフォン・クイニョンにおける海関運営と交易に関する文書を発掘したことは、特筆すべき点である。また阮朝シュ本の分析から、現在のタイビン省に位置する茶里港の歴史的重要性を実証しえたことは、国際的に先駆的な成果と言えよう。このほか開港後に顕著となった海賊問題や、対仏交渉の最前線に立った阮朝の高官についても、シュ本や漢喃研究院所蔵の文集のなかに多くの情報を見出すことができた。いっぽうフランス本国の公文書館でも、上述のパリ外国宣教会史料をはじめ、海関運営や対仏交渉の実務を担ったベトナム人キリスト教徒に関する多くの未公刊史料を発見できた。
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