研究課題/領域番号 |
22K20056
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
太田 奈名子 清泉女子大学, 文学部, 専任講師 (30965025)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | ラジオ放送 / 批判的談話研究 / 占領期 / メディア史 / 『真相箱』 / 貫戦史 / メディア・リテラシー教育 / GHQ |
研究実績の概要 |
「日米貫戦史」という仮説的枠組みをもとに、批判的談話研究という歴史資料を言語学的に分析するアプローチを用いて、日米放送史の融合から戦後日本の親米民主化を考察する本研究遂行のため、2022年度は①発表活動と②国内調査に注力し、新型コロナウイルス感染拡大の収まりを期待できる2023年度に渡米調査を行うこととした。 ①翰林大学校日本学研究所2022年国際シンポジウムや、メディア学会2022年秋季大会において、占領期にラジオ放送された投書番組『真相箱』の書き起こし(東京・愛宕山のNHK放送博物館内「図書・史料ライブラリー」所蔵)を分析対象とした口頭発表を行った。これまで未解明・未公刊であった昭和天皇の生活をめぐる質問回答を特に分析し、アメリカの世論や文化の紹介とともに天皇報道が行われていた点を明らかにした。学会参加者から得た指摘をもとに修正した発表原稿は、2023年度に論文化する。 ②放送の送り手のみならず、放送の受け手、つまり占領期ラジオ放送をいかに日本の聴取者が聴き、そして反応したかについても考察を深めるため、秋には宮城・仙台文学館を訪問し、作家・井上ひさしが占領期の仙台を描いた『青葉繁れる』の直筆原稿を閲覧した。調査内容は、『社会文学』で論文発表し、2023年度はメディア史研究における文学の資料的価値をさらに模索していく。また、占領下で本土とは異なるラジオ放送政策が実施されていた沖縄について調査するため、冬には沖縄・那覇市歴史博物館を訪問した。親米をめぐる情報がいかにラジオから流れていたか、いかに本土のそれと異なっていたかを分析するため、放送琉球放送局長を務めた川平朝申資料などを閲覧した。 なお、一般社会への還元を強く念頭に置いた研究活動として、占領期放送史の知見を大学における英語教育、およびメディア・リテラシー教育に活かすための口頭・論文発表も精力的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査が今年度から実施できるのが理想ではあったが、その時間を国内調査に充てられ、2023年度に論文化を行うための資料が十分に揃ったため、研究は「おおむね順調に進展している」と評価できる。 NHK放送博物館が所蔵する『真相箱』台本のアーカイブ化・一般公開を目指す前段階として、その資料的価値を存分に示すことのできる論文を執筆するため、論文発表に必要な書き起こしを適宜、丹念に行えた。海外出張ができなかったことを逆手に取り、放送の送り手のみならず、受け手、そして放送内容の資料を充実させ、占領期日本の放送史の多角的解明に近づくことができた。具体的には、仙台調査によって、放送の受け手資料として直筆原稿を含む文学作品・関連資料を考察する機会、さらに、沖縄出張によって、本土と異なる親米の語りがみられる放送内容を突き止める機会を得られた。2022年度の調査を契機に、2023年度は発展的に、放送資料を文学研究で、文学をメディア史研究で活用する具体例を積極的に示していくことができる。 今年度特に研究の進展において有益であったのは、メディア史研究会での口頭発表「占領期メディアが生み育んだ《人間》天皇―メディアミックスと日英語比較の観点からラジオ番組『真相箱』を紐解く― 」であった。メディア論・歴史学・言語学・文学・政治学などの横断領域的研究実現の困難さを痛感すると同時に、そうした研究を独りで行わずに研究者仲間とともに築いていくことの大切さを学び、そのなかで、「人間宣言」を中心とした象徴天皇をめぐる報道が行われた『真相箱』が、日米放送史の融合の結果生まれた「国際的投書番組」であったことを改めて確認できた。同番組が「日米放送貫戦史」、およびこれまで明らかにされてこなかった戦後日本親米化に光を当てる鍵となることを今年度に再確認できたことは、来年度、2023年度の研究活動の原動力となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、2022年度に達成できなかった海外調査・海外におけるネットワーキングを存分に行って、2023年度は本来の研究目的・実施計画に忠実な研究実績を発表し、本研究成果をまとめた2024年度内の書籍刊行に向けて尽力する。 海外の先行研究もまだ十分に明らかにしていない、アメリカにおける「マイクの開放」の実態を調査するために渡米し、主にメリーランド大学カレッジパーク校内のアメリカ放送図書館において適切な未公刊資料を発掘し、学術関係者以外にとっても有益な、示唆に富む知としての「日米放送貫戦史」を描出していきたい。 なお、渡米調査のみならず、時間の許す限り国内でも出張・ネットワーキングを行い、本研究の横断領域的姿勢を確固たるものにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
特に「旅費」に関して、今年度は、アメリカへの海外調査(2週間程度を2回)を予定していたが、コロナ禍の収束が見込めなかったため、次年度に繰り越すこととした。 「その他」に関して、今年度は、ラジオ番組『真相箱』のデータベース化を計画していたが、台本を所蔵するNHK放送博物館からの許可を得るのが難しかったため、次年度の「旅費」に繰り越し、海外調査滞在期間を延長する予定である。
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