本年度は、イギリス・ロンドンにおいて資料・史料の収集を行った。特にイギリスの国立公文書館では植民地省の香港関係文書(C129)を調査し、多くの戦間期の香港における医療・衛生問題に関する文書を入手し、分析を進めることができた。 また、2023年6月には「近代のイギリス領香港における公衆衛生対策―「衛生の生権力」という観点から―」と題した研究報告を同志社大学人文科学研究所第21期部門研究会第7研究「戦間期における身体・環境への生政治的介入の国際比較」において行った。「衛生の生権力」をキーワードとして、香港の事例を同時代的な文脈の中にどのように位置づけることができるかについて議論することができた。 さらに2024年3月には、京都大学人文科学研究所共同研究班「20世紀中国史の資料的復元」において「戦間期の香港における華人エリートと政治参加:潔浄局議員選挙の復元を例として」というタイトルで報告を行った。ここでは、戦間期に華人の医師が潔浄局(Sanitary Board)の議員選挙に立候補するようになったこと、選挙戦においては西洋医療の専門家であることが「市民」としてのあり方と結びつけられて重要な論点となっていたこと、華人エリートが「華人社会の代表者」としてだけでなく、近代的な制度における「華人社会の管理者」として自らを位置づけようとしていたことを明らかにすることができた。質疑応答においても、今後の論文執筆に向けて貴重な意見を得ることができた。
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