本研究は、中世から現代に至るまでの村落景観の変遷過程を、自然災害や気候変動などの環境的要因とそれに対応する人々や村落の動向といった人為的要因の双方向から検討し、自然災害や気候変動に応答する地域社会・村落の実態を究明することを目的として進めてきた。 佐賀県小城市を研究フィールドとして、本年度は4集落にて聞き取り調査を実施し、研究期間を通じて灌漑用水を祇園川に依拠する集落のほぼ全てで水利灌漑調査・聞き取り調査を実施することができた。本年度の聞き取り調査では用水路の下流にあたる集落で調査を展開した。その結果、最近まで水不足だったが、新導水路の通水で水不足が解消されたことが判明し、用水路の下流にあたる地域は近年の治水事業で改善されるまで長く水不足に悩まされていたことが確定的となった。 こうした調査の結果、調査対象範囲における水利灌漑および生産環境は、取水も排水も上流域集落が圧倒的優位性を持つということが浮き彫りになり、水不足など環境的要因がもたらす生産被害が均一的なものではなく、水利慣行等によって集落ごと異なる様相を呈すということが明らかになった。 一方で、こうした慣行を受け容れている風習も見られ、そうした地域性がどのように育まれたのかという新たな視点を獲得することにも繋がっている。 また、文献調査では「小城藩日記」に景観変化を示す記事を求めたが、明確な形で景観が変化したことを示す記事を探し出すことはできていない。ただし、上記の聞き取り調査などを踏まえて、洪水・旱魃時の村落の様子を考察することは可能な状況となっている。 これらの調査研究報告書を作成中で、近日中に刊行する予定である。
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