今年度は、①生産遺跡の資料整理・型式学的検討、②消費遺跡出土資料の型式学的検討、③基礎資料の集成、④胎土分析を実施した。①生産遺跡資料の検討 生産遺跡における製塩土器の出土量・型式のバリエーション・編年は、本研究の基礎をなす重要な情報である。これを収集するため、今年度は和歌山県西庄遺跡を主たる対象に資料調査・検討会を実施した。 ②消費遺跡出土資料の検討 今年度は兵庫県・和歌山県・奈良県の資料調査を実施した。例えば奈良県松山遺跡では、和歌山市西庄遺跡をはじめとした紀伊の製塩土器と型式学的特徴が非常に似通る資料が多く出土しており、吉野川を北上して奈良盆地へ至る塩の流通ルートを復元できた。また、2023年5月には奈良県の製塩土器の検討会を実施し、30名ほどの研究者が集ったなかで研究発表と意見交換をおこなった。 ③製塩土器集成 今年度は和歌山県の製塩土器出土例の悉皆的集成を実施した。その結果を古墳時代に限って述べれば、中期までは紀ノ川流域を中心に和歌山県北部に集中し、また集落遺跡で住居跡などから出土する例で占められた一方、後期は県南部を中心に、古墳の副葬品として出土する事例が多くなるという変化を見出すことができた。 ④製塩土器の胎土分析 今年度は、東京大学総合学術博物館タンデム加速器研究施設と連携し、製塩土器胎土分析の新たな方法を開拓するべく脂質分析をはじめとする分析を実施した。 研究期間全体を通じて、古墳時代中期の土器製塩生産遺跡と消費遺跡で出土する資料の実態把握がおおきく進んだ。実地での調査を重ねたことにより、膨大な量を抱える生産遺跡の資料が明確化したことで、これまで搬入元が不明であった消費地の資料の産地同定作業を進めることができた。また、理化学的手法による製塩土器胎土の分析では、蛍光X線分析をはじめ複数の方法を実施でき、その有用性を確かめた。
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