研究課題/領域番号 |
22K20073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大谷 侑也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (10964231)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 伊良部島 / 宮古島 / 水資源 / 水環境 / 島嶼農業 / 地下ダム / 伊良部大橋 / 架橋化 |
研究実績の概要 |
宮古列島は地質構造上、降水の一部は地下水として地下水盆に貯留されるが、そのほとんどが海へと流出するため、河川や湖沼は形成されない。そのような状況から宮古列島は水資源に乏しく、洞窟湧水の水くみが女性と子供の日課であり、また農業用水は雨水に依存していたことから干ばつの被害が多い状況であった。 宮古本島は地下ダムの建設により一定の水資源が確保されたが、伊良部島は未だ水不足が続いていた。その後、2015年に本島と伊良部島を結ぶ全長3,540mの「伊良部大橋」が建設された。この伊良部大橋には情報ケーブルや電力線の他に、上水パイプと農水パイプが敷設され、本島の地下ダムで貯水された地下水を橋のパイプを通して伊良部島に送水することが可能となった。本研究の目的は、この本島からの地下水資源の送水にともなう、伊良部島の農業環境の変容を明らかにすることである。 宮古島、伊良部島において調査を実施した。聞き取りは非構造化インタビュー方式(質問内容を特に定めず、非調査者の考えを引き出す方式)により行った。また農業水利事務所、農村整備課、宮古島市上下水道局において聞き取り、資料収集を実施した。資料収集の結果、宮古本島の仲原地下ダム、保良地下ダムから伊良部島へ地下水が送水されており、本島から送水された水は伊良部島の牧山ファームポンド(牧山FP)(有効貯水量: 15,962m3)に貯水され、その後、各農地へと送水されていることがわかった。伊良部地区(牧山FP)の流入量の積算値は2015年から2016年にかけ増加した後、2020年3月まで安定的に推移していた。しかし、2020年4月から2021年3月にかけ流入量が減少しており、これはコロナウィルスによる作物需要の減少による水需要の減少が要因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は宮古島、伊良部島において調査を実施することができた。聞き取りは非構造化インタビュー方式(質問内容を特に定めず、非調査者の考えを引き出す方式)により行った。また農業水利事務所、農村整備課、宮古島市上下水道局において聞き取り、資料収集を実施した。資料収集の結果、宮古本島の仲原地下ダム、保良地下ダムから伊良部島へ地下水が送水されており、本島から送水された水は伊良部島の牧山ファームポンド(牧山FP)(有効貯水量: 15,962m3)に貯水され、その後、各農地へと送水されていることがわかった。伊良部地区(牧山FP)の流入量の積算値は2015年から2016年にかけ増加した後、2020年3月まで安定的に推移していた。しかし、2020年4月から2021年3月にかけ流入量が減少しており、これはコロナウィルスによる作物需要の減少による水需要の減少が要因と考えられる。今年度の調査時点では、地下ダムからの水が貯水される牧山FPと、魚口地区の(0.46km2)につながる排水施設が完成していた。一方、島の多くの畑地には未だ排水施設が整備されておらず、天水、ため池、井戸水に依存している状況である。Ⅲ型給水施設の利用も確認されたが、軽トラックに水タンクを積み、水を貯めて自らの畑地に運搬する必要があるため労力がかかる状態である。そのため、現状、送水開始による伊良部島内の農業の水環境への大きな影響は認められないが、今後の排水施設の整備によって宮古本島で可能となったマンゴーや温室を使った施設栽培が可能となると考えられる。以上の調査結果は、当初予想していた研究実施計画と概ね整合していることから今回の自己評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本島からの地下ダム地下水の伊良部島内における配水状況が改善される予定であり、過去、宮古本島で可能となったマンゴーや温室を使った施設栽培が伊良部島においても可能となると考えられる。そのため引き続き島内においてインタビュー調査や資料収集を実施し、必要に応じて島内の農家に住み込み調査を行う予定である。他方、調査中に島民と会話をするなかで、特に多く聞かれたのは「船上でのふれあい、情報交換の場の喪失」であった。架橋前は船上で近況報告や地域に関わる様々な情報が交換されていた。架橋後、フェリーが廃止されたことで、集落の個人主義化が進んだと語る島民もいた。そのため、今後は付随的な調査として架橋後の住民意識の変容に関する聞き取り調査も実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費が採択され、執行可能となった時期が年末に近く、年度内の調査や物品の購入が難しい状況であったため、次年度使用額が生じた。次年度は今年度の金額とあわせて調査を行い、必要に応じて物品を購入する予定である。
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