研究実績の概要 |
本研究の調査地域である伊良部島は上層が透水性の高い琉球石灰岩層、下層が透水性の低い島尻泥岩層で構成されているため、降水はすぐに地下に浸透し、島尻泥岩層に阻まれて海に流出する。その結果、全国平均より多い年間平均降水量2,100mmもの降水があるにもかかわらず、島の農業は「水なし農業」と呼ばれ、慢性的な水不足に悩まされてきた。しかし、1998年に本島に地下ダムが建設され、地下水資源が確保されると、宮古島本島の農業は大きく発展した。一方、隣接する伊良部島は地質に淡水レンズが形成されるため、地下水に海水が混じり地下ダムを建設することができず、「水なし農業」のままであった。このような状況の中、水道管が敷設された伊良部大橋が2015年に完成し、本島の地下ダムの水が伊良部島に送られるようになった。本研究では、この架橋が伊良部島の農業環境や作物生産性、地域住民に与える影響を、定量的に把握することを目的とした。 調査の結果、宮古島から伊良部島に送水される地下水を貯水する牧山ファームポンド(FP)の流入量積算値は2015年から2016年にかけ、増加後、2020年3月まで安定的に推移していることが分かった。一方、2020年4月から2021年3月にかけ流入量が減少しており、これはコロナウィルスによる作物需要の減少による水需要の減少が要因と考えられる。 島の多くの畑地には未だ排水施設が整備されておらず、天水、ため池、井戸水に依存している状況である。牧山FPには有料の給水器が付設されておりその利用も確認されたが、軽トラックに水タンクを積み、水を貯めて自らの畑地に運搬する必要があるため労力がかかる。そのため、現状、送水開始による伊良部島内の農業の水環境への大きな影響は認められないが、今後の排水施設の整備によって宮古本島で可能となったマンゴーや温室を使った施設栽培が可能となると考えられる。
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