研究課題/領域番号 |
22K20082
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
三隅 貴史 関西学院大学, 社会学部, 助教 (20962971)
|
研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
キーワード | 民俗学 / 祭礼 / 祭り / 青森県 |
研究実績の概要 |
青森ねぶた祭は、日本を代表する大規模祭礼であり、かつ、祭礼に多数の地域外参加者が参加している点や、乱痴気騒ぎ的行為の抑制が困難な点などにおいて、日本で最も先端的な祭礼の一つである。そのような青森ねぶた祭の時期だけ青森市を訪れ、市が整備している「サマーキャンプ場」で共同生活を送りながら、青森ねぶた祭に参加するバイク・自転車・旅愛好家が、「ハネトライダー/チャリダー」である。 では、ハネトライダー/チャリダーのような地域外参加者が多数参加する青森ねぶた祭を分析するにあたり、どのような理論的視角をもちいることが適切なのだろうか。そしてその視角からは、青森ねぶた祭、そして、現代の祭礼をどのように説明することができるのだろうか。本研究は、大規模祭礼の分析に「闘争理論」という新しい視角を導入し、新たな知見を生み出すことに挑戦するものである。 初年度にあたる令和4年度は、まず、先行する祭礼研究の理論的分析視角および、それらの研究が提示した知見の整理を実施した。この祭礼研究の整理の成果については、研究代表者の東京圏の祭礼に対する既存の研究と合わせて、本年度中に執筆した単著『神輿と闘争の民俗学:浅草・三社祭のエスノグラフィー』にて公表した。 また、現地調査として、2022年8月の青森ねぶた祭の参与観察を実施したほか、五所川原市商工会議所などにおける資料収集を実施した。これによって、①:ライダー-青森市・青森県警察との現在の関係性と、②:実行委員会・自治体による青森ねぶた祭における闘争を抑制するための戦略という2つの論点に関する資料を収集することができた。 加えて、2022年度の青森ねぶた祭が、新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまでとは異なる手法によって開催されたことに着想を得て、新型コロナウイルス感染拡大下における祭礼のありように関する先行研究の渉猟や、全国の祭礼に対する現地調査を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、研究費を利用した上で、11カ所の祭礼(ねぶた/ねぷた系3ヶ所、その他8ヶ所)において、参与観察・聞き取り調査を実施した。青森ねぶた祭においては、ハネトライダー/チャリダーとかれらの実践に対する参与観察・聞き取り調査を中心的な課題とした。これらの調査から、ハネトライダー/チャリダーの歴史的な経緯や、カラスハネト(行列内で粗暴行為を行う参加者。社会問題になっている)との関係性などに対する、多くのデータを収集できた。加えて、同じねぶた/ねぷた系祭礼である、五所川原立佞武多と大湊ネブタに対する参与観察を実施することで、青森ねぶた祭の特徴を、より鮮明に浮かび上がらせることができた。 また、青森ねぶた祭等の祭礼に関する行政文書や新聞記事の収集を目的として、弘前市立図書館や五所川原商工会議所などにおける資料収集を実施した。これによって、実行委員会・自治体による青森ねぶた祭における闘争を抑制するための戦略に関する資料を多く入手することができた。 闘争という理論的分析視角を用いて日本の大規模祭礼を研究することの妥当性の検証、そして、新型コロナウイルスの感染拡大下における祭礼の実施に関する知見の深化という2点を目的として、日本の8箇所の大規模祭礼に対する参与観察・聞き取り調査を実施した。これらの調査によって得られた知見の一部については、今後、ハネトライダー/チャリダーを主要な研究対象とした論文とは異なる形で報告する。 これによって、現時点で論文の執筆開始を可能とするだけのデータを収集することができたと考えている。以上の成果が出たことから、現在までの研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、本研究課題の最終年度にあたる。そのため今後は、参与観察・聞き取り調査のデータのまとめと、厚みのあるエスノグラフィーの執筆、そして、その成果を論文として、民俗学・社会学関連雑誌に投稿していくことを重要な課題としたい。 青森ねぶた祭に対する予備調査の実施にあたっては、本年度の調査で十分に明らかにできなかった部分の補足を中心として実施する。 他の祭礼に対する調査の実施にあたっては、本報告書でまとめたとおり、闘争という理論的分析視角を用いることの妥当性の検証と、新型コロナウイルスの感染拡大下における祭礼の実施に関する知見の深化という2点の目的をもって実施する。
|