研究課題/領域番号 |
22K20089
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
酒井 智之 一橋大学, 大学院法学研究科, 講師 (20909535)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 刑法 / 共犯 / 幇助犯 / 心理的因果性 / 因果関係 / 心理的幇助犯 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、人の心理を介するという心理的幇助犯の因果関係の特殊性がその判断枠組みに与える影響を踏まえ、その具体的な判断基準を明らかにすることである。 採択1年目である2022年度は、物理的幇助犯との対比で、心理的幇助犯における因果関係にどのような特殊性があるのかを明らかにするため、日本及びドイツの刑法学に関する文献を収集し、心理的幇助犯に限られない心理的因果関係一般の特殊性と、心理的幇助犯の因果関係に固有の特殊性に分けて検討を行うとともに、関連する人の心理領域に関する哲学・心理学の知見を調査した。 2022年度の研究成果は、以下の通りである。心理的な因果経過には、確実な予測を可能にする自然法則だけでなく、ある程度の予測を可能にする心理学的・統計的な経験則も解明されていないという特殊性がある。学説の一部は「蓋然性法則」に着目するが、法則的説明には利用できず、あるいは、そもそも因果的説明を目指したものではないために、法則の乏しさを解消しない。しかし、回顧的な判断として因果関係を認めることも可能であり、法則の乏しさは心理的因果関係の判断を不可能にしないことが明らかになった。次に、心理的幇助犯の因果関係に固有の特殊性については、証明の困難性や正犯者による恣意的な操作可能性などが挙げられるが、いずれも心理的幇助犯に固有の判断枠組みを導入することが必要であることを基礎づけないことが明らかになった。 以上の研究成果については、既に論文化して投稿を申請しており、2023年の7月頃に公表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では、2022年度は、物理的幇助犯との対比で心理的幇助犯における因果関係にどのような特殊性があるのかを明らかにするとともに、関連する哲学・心理学の文献について調査を行うことを計画していたところ、2022年度の研究を通じて、心理的幇助犯における因果関係の特殊性については、心理的因果関係一般に共通する特殊性と心理的幇助犯の因果関係に固有の特殊性の双方について、その内実と意義をおおむね明らかにすることができた。心理的幇助犯の因果関係の原理的な特殊性は固有の判断枠組みの必要性を基礎づけないとの検討結果は、2023年度において物理的幇助犯と同様の判断枠組みを採ることができるかについて検討することを予定する本研究において、重要な基礎をなすものである。 また、哲学や心理学の知見に関する調査を通じて、特に心理学の知見について、2023年度の研究計画で予定する具体的な判断枠組みの検討との関係でも一定の示唆を得られる可能性があることが明らかになった。もっとも、当初の研究計画では哲学・心理学の知見に関する調査は2022年度中に終える予定であったが、2023年度の検討事項との関係での調査は十分ではなく、引き続き調査を要する。 以上のように、関連分野の調査に関して2023年度に実施予定の研究計画との関係でなお調査を要することが明らかになったものの、2022年度の研究計画で予定した検討事項について結論を得ており、研究成果の公表についても予定通り2023年度の前半中の公表を見込んでいるから、研究計画は「おおむね順調に進展している」ものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画で予定していた通り、本研究の最終年度である2023年度は、2022年度の研究成果を踏まえ、「蓋然性法則」に基づく判断枠組みを導入する見解をはじめ心理的幇助犯に固有の判断枠組みを導入する見解について検討を行い、物理的幇助犯と同様の判断枠組みを採るべきか否かを明らかにすることで、心理的幇助犯における因果関係の判断枠組みの解明を試みる。この研究計画を遂行するため、引き続き日本及びドイツの刑法学に関する文献を調査・検討するとともに、関連分野の文献についても調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:為替レートの大幅な変動に伴い、購入する物品と購入の時期を調整したため。 使用計画:文献購入のため2023年度請求額と合わせて物品費として使用する。
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