本研究の目的は、人の心理を介するという心理的幇助犯における因果関係の特殊性がその判断枠組みに与える影響を踏まえ、その具体的な判断基準を明らかにすることである。本研究の最終年度にあたる2023年度は、心理的幇助犯における因果関係の特殊性に関する前年度の研究成果を踏まえ、物理的幇助犯と同様の判断枠組みを採るべきかについて検討を行った。 心理的幇助犯に特殊な判断枠組みの導入は、成立範囲の理論的な限界づけに困難があり、これを主張する学説の一部は危険犯説に接近する難点を有している。心理的幇助犯における因果関係の特殊性は固有の判断枠組みを導入する必要性を基礎づけないとの前年度の研究成果を踏まえると、この方向性は有望ではない。他方で、物理的幇助犯と同様の判断枠組みを採る場合、援助行為と正犯行為の間の事実的因果関係を重視すると、心理的幇助犯では非常に弱い事実的な繋がりに頼らざるを得ず、判断基準の明確化は困難である。しかし、物理的幇助犯においても援助行為と正犯行為の間の事実的関係は必須のものではないとの理解を出発点とし、心理的幇助犯においても正犯所為の時点における意欲的心理の強化とそれを通じた危険増加の有無に着目することで、物理的幇助犯との理論的一貫性を保ちつつ判断基準の明確化を図ることが可能である。そこで、このような形で物理的幇助犯と同様の判断枠組みを採るべきであるとの検討結果が得られた。この検討結果は、従来不明瞭であった心理的幇助犯における因果関係の具体的な判断基準を明らかにするものである。 前年度の研究成果は「心理的幇助犯における因果関係の特殊性」一橋法学22巻2号343-376頁(2023年)として公表済みであり、これと2023年度の研究成果を踏まえた本研究全体の研究成果は「心理的幇助犯における因果関係の判断枠組み」一橋法学23巻1号(2024年)において公表予定である。
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