研究課題/領域番号 |
22K20096
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
藤田 大智 成蹊大学, 法学部, 助教 (60964616)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 国際気候変動法 / 国際法形成 / 公衆参加 / 透明性 / 国際人権法 |
研究実績の概要 |
初年度は、気候変動に対する人権アプローチの質・量の変化態様の分析を行った。自由権規約委員会をはじめとした人権条約機関、世界銀行やWHOを含めた国際組織、人権理事会や新設の気候変動に関する特別報告者を含め国連関連諸機関作成の報告書等文書の分析を行い、先住民族の権利、気候難民・移民、ジェンダー、年齢、障害者等に着目した社会的包括性の議論、水・食糧・住居に対する権利、海面上昇に伴う遺産の消失等の文化的権利に対する影響といった人権の種類の多様化を一覧化し、気候変動の人権への影響の言及量増加を明らかにした。これにより、気候変動の人権課題の指摘・共有の増加と、オブザーバー資格を有するNGOから構成され、情報取得・会合参加等の優遇が認められる非政府組織グループ数の増加等の各条約体における公衆参加態様の変化との相関関係を明らかにした。成果の一部は、成蹊大学未来法学研究所研究会において発表した。 また、 公衆参加の必要性認識共有過程の解明に関して、法形成要因として条約体制間相互作用の理論分析を深化させ、国内外の討議・説得場面、主体、そして内容と同時に結果に影響を与える要素を浮き彫りにする本相互作用の存在を国際法形成理論が把握する必要性を解明した。理論分析深化の結果は、日本障害法学会誌に投稿した(査読審査中)。 さらに、条約体に関わる各アクターによる公衆参加態様の改変・維持に関する提案内容を当該アクターの性質と併せて整除する分析を行い、アジア地域と欧米地域における地域的国際組織・NGOにおける気候変動に関する人権課題への言及の有無・程度の相違の要因に関して、地域的人権条約や締約国に対して環境政策の意思決定における利害関係者の参加を求めるオーフス条約等に相当する条約のアジア地域における欠如の一因を明らかにした。 以上の令和4年度の成果は、令和6年出版予定の図書(研究成果公開促進費採択)に組み込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気候変動問題に対する人権アプローチの質・量の変化と、3つの条約体(気候変動枠組条約体制、国際民間航空機関、国際海事機関)における公衆参加態様の変化を、時間軸に沿って一覧・可視化することで、それらの相関関係を分析する研究は、当初の予定通り実施できた。 当初令和4年度の実施を予定した、環境問題の意思決定における公衆参加を求めるオーフス条約や公共問題に参加する権利を規定する人権条約起草時点における当該法規則運用の典型態様と、気候変動国際交渉における現在の運用態様との比較分析を、令和5年度前半に実施することとなった。しかし、令和5年度後半の実施を予定していた条約体制間相互作用に関する理論分析について、国際人権基準形成に関する他の研究課題との関係で、令和4年度中に進展させることができた。 また、各条約体に関わる各アクターによる公衆参加態様改変・維持に関する提案・言及内容を当該アクターの性質と併せて整序し、公衆参加を可能とする法規則の変化理由を明らかにする研究も計画通り実施できた。本分析を通して、地域的国際機関独自の気候変動政策の分析の必要性が明らかとなった。各地域的国際機関の気候変動政策の分析とこれらが気候変動枠組み条約体制をはじめとする普遍的レベルでの政策形成に与える影響の分析に基づく国際法学上の課題分析という新たな分析課題の発見につながった。 以上のように、別途研究計画を策定すべき新たな分析課題の発見もあり、 研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り2年目は、温室効果ガス排出規制の国際交渉が行われる3つの条約体制における人権アプローチの影響分析により、人権アプローチの変化と公衆参加態様の変化との対照を通じて、人権アプローチの公衆参加への影響と、条約体間で公衆参加態様の変化に異同が生じる理由を明らかにする。 初年度に実施した気候変動の人権課題の指摘・共有の増加と、公衆参加態様の変化との間の相関関係の存在分析に基づき、条約体の性質を反映した公衆参加制度展開態様の異同分析を行う。条約体やその内部機関の判断内容の性質等に着目し、文書公開やオブザーバー参加など情報アクセス政策・公衆参加態様に差異が生じる要因を明らかにする。これにより、3つの条約体において公衆参加に関する規範意識の統一や多元性が生じる要因を整序する。その上で、これまでの成果を総合し、人権アプローチが参加権としての人権や3条約体の公衆参加へ与えた影響の諸要素を明示し、人権問題の顕現化が公衆参加の質の向上に与えた関係を明らかにする。 また、 アジア太平洋地域における森林保全管理プロジェクトと先住民族の権利・人権問題の分析を通して、気候変動対策において途上国に積極的役割を与えるREDD+の機能促進に向けた国際法上の課題の研究を成蹊大学アジア太平洋研究センター令和5年度プロジェクトとして実施する。本研究の遂行により、国際的意思決定において影響力を高めてきたNGOをはじめとする非国家主体の国際法上の理論的位置付けの再考を促進する。 さらに、気候変動枠組み条約体制構成員の中でも、特に地域的国際機関・共同体の活動の影響力は、別途分析を行う必要があることが明らかとなった。令和6年度以降の別途の研究課題としてASEANをはじめとする地域的国際組織・共同体の気候変動政策の分析を計画し、本研究課題の成果と併せて、国際気候変動法の体系化に向けたさらなる研究の推進を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額49円は、昨年度使用予定分の残余の端数にあたる。 国際民間航空機関は、議事録やマニュアルをそのウェブサイト上で販売しており、議事録やマニュアルは、国際民間航空機関における公衆参加態様の変化を調査するために必要である。2022年2月の会合議事録にあたる「CAEP Report/12」が2022年度中に発行されなかったため、他のマニュアルの取得と併せて、2023年度に取得し分析する。 新型コロナウィルス感染拡大が一定の落ち着きを見せてきたので、当初の計画通り、学会・研究会、NGO主催の会合等へ出席参加による調査活動を実施していく。
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備考 |
(1)は、2022年の研究報告「国際気候変動政策における国家の役割形成と意思決定過程の課題―UNFCCC、ICAO、IMOにおける政策分析を通して―」に関するwebページ。 (2)は、令和5年度実施予定のアジア太平洋地域のREDD+と先住民族の権利を素材とした気候変動対策における途上国の役割形成と国際法上の課題を分析する研究に関するwebページ。
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