研究課題/領域番号 |
22K20097
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
渡邊 貴 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (10963564)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 複合契約 / 相互依存的契約 / 契約相対効の原則 / 全体的取引 / 第三者与信型消費者信用取引 / 既払金の返還 / 契約の連鎖的消滅 / 与信者の責任 |
研究実績の概要 |
2023年度は交付申請書に記載した計画のうち、複合契約論との関係における契約相対効の原則の今日的意義の検討(総論的課題)の後半部分の検討、および各論的問題として、特に第三者与信型消費者信用取引における既払金返還の問題の法的構造についての考察を行った。 まず、前者について、すでに前年度の検討から、相互依存的契約を構成する複数の契約について、これを古典的契約法理論が前提とする単一契約との関係でどのように位置づけて理解すべきか、という問いに応答する必要性を感じていたところ、フランス法の検討を通して、「全体的取引」の実現のために、一つの契約から生じる給付で足りるか、複数の契約から生じる給付の組み合わせが必要とされていたか、という観点から「単一契約」と「複合化した契約」の類型化を図り、かかる類型に応じて、契約相対効の原則の適用の範囲を区別して理解する可能性があることが明らかになった。さらにこうした理解は、フランス法を母法として起草された我が国旧民法においても一定程度共有されていた理解であることも明らかとなった。 続いて、各論的考察として、第三者与信型消費者信用取引における既払金返還の問題の法的構造の分析を行った。当初はDPF取引の民事法的問題を主たる検討対象とすることを予定していたところ、複合契約における「取引」システムへの信頼・責任という視点からの検討により適している(にもかかわらず、未だ十分な検討がなされているとは言えない状況にある)のが、第三者与信型消費者信用取引における既払金返還の問題であると考えられたためである。フランス法の検討を行った結果、フランスでは、既払金返還の可否の問題を、判断枠組みを異にする二つの問題-既払金返還の前提となる与信契約の連鎖的消滅の可否の問題と、連鎖的消滅後の清算関係のあり方に関する問題-に分けて議論するという理解が有力であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総論的課題・各論的課題のいずれについても、信頼・責任という観点から分析を進めることができ、かつ一定の知見を得るに至っている。2023年度は相対的に公表論文は限られているものの、研究会報告を経たものや、脱稿済みの原稿も含めて、2023年度に行った研究の成果を公表する一応の目処が立っている。以上が、上記のような評価を行った主たる理由である。 また、研究会報告や論文の公表に至らないまでも、上記のような形での検討を進めていく過程で、研究課題に関連する重要な今後の検討課題に気づくことができたり、あるいは内外の研究者と意見交換をする機会を得たことで今後の研究の大きな方向性を見定めることができたこと(例えば、フランス法のみならず、より近時になって民法の改正に着手したベルギー法の議論をも比較対象とすることで、より立体的な形での比較法研究を進める可能性に気づけたこと)も、上記評価を行った付随的な理由として挙げることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に行った研究の成果を公表する作業に注力する。その際、本研究課題の実施を通じて得られた知見のみならず、これまで申請者が行ったきた研究や公表済みの論考が、本研究課題の実施を通じて得られた知見といかなる関係を有するのか、という視点を持って、従前の研究をまとめる形で、研究の成果を公表する作業に注力したいと考えている。これとともに、各論的な問題として、DPF取引の民事法的問題についての比較法的な検討も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度にフランスへの出張を行い、現地で資料収集を行う予定であった。しかし、特に各論的問題として検討すべき対象として、まず第三者与信型消費者信用取引を取り上げることとし、2023年度はこれについての国内での資料の収集・検討に注力をしたため、結果として海外出張を行わなかった。もっとも、国内で収集できる資料の限界や、現地で検討すべき問題についてのあたりをつけることができたので、2024年度に長期の海外出張をすることを予定している。 このため、2024年度においては、海外出張(フランス)を行うことにより、次年度使用額を使用することを計画している。
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