令和5年度においては、前年度に引き続き文献資料の整理・分析を行うとともに、8月に韓国に出張して国立警察大学の研究者から意見を聴取するなどして、警察官権限法制の整備(立法に向けた議論を含む。)に関する韓国・台湾と日本との違い及びその背景について検討を進めた。これにより、韓国(警察官職務執行法)については、その特徴として①手続的権利保障・救済の強化、②情報収集処理根拠規定の整備、③職務執行円滑化規定の導入、④「危険」概念の精緻化に基づく議論、⑤概括的授権方式に対する肯定的評価等の点を特定し、その背景となる13項目の要素を社会的要因、制度的要因、法文化的要因及び学術的要因に分類して抽出した。その内容は、9月の警察政策学会管理運用研究部会で中間報告を行い、12月に講演記録が同学会から刊行されている。台湾(警察職権行使法)についても、上記①②④⑤と類似の特徴が把握され、その背景要素として韓国と共通のものを一部確認することができたが、課題解決型の法整備を順次行ってきた韓国と異なり、台湾では法制不備を指摘する大法官会議の憲法判断を受けて義務付け期間内に急遽新法を制定し、その後の改正は1回という状況であるため、立法時に参考としたドイツ警察法の影響が非常に濃厚で、台湾の社会・文化的特徴をどの程度具体的に反映しているか不透明な部分もあり、これを明らかにするには、現在進行中の警察職権行使法施行20周年を契機とする回顧・見直しの議論を今暫くフォローする必要がある。 補助事業期間全体を通じての成果としては、これらの結果と我が国の社会・文化及び治安の現状を対照することにより、今後の我が国の治安課題や治安行政の在り方に適合した具体的かつ現実的な警察官権限法制整備のための条件及び当面検討すべき事項について暫定的な整理を行った。
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