研究実績の概要 |
最終年度においては、自由意志・道徳的責任論に関わる外国語基礎資料の翻訳を進め、そのうち、Matthew Talbert,“ Moral Responsibility”, in Edward N Zalta & Uri Nodelman(eds), The Stanford Encyclopedia of Philosophy(Fall 2022 edn)およびGregg D Caruso,‘Retributivism, Free Will, and the Public Health-Quarantine Model’ in M C Altman(ed), The Palgrave Handbook on the Philosophy of Punishment(Palgrave Macmillan, 2023) 489の翻訳を完了し、大学紀要(早稲田法学)での連載を開始した。これにより、英語圏の自由意志・道徳的責任論の最新状況に日本語でアクセスすることが可能となり(Talbert論文)、また、その中でも、わが国において従来あまり紹介されてこなかった自由意志懐疑論について、その意義と主張内容を日本語で把握することが可能となった(Caruso論文)。さらに、上記Caruso教授と東京で面会し、自由意志懐疑論と刑法との関係、特に目的刑論との親和性や積極的一般予防論との両立可能性について意見交換を行った。 以上のほか、研究期間の全体にわたり、現代における自由意志懐疑論の代表的文献(特に、Gregg D Caruso, Rejecting Retributivism (CUP, 2021))の検討を行った結果、現在のわが国の刑法学では両立論のみが刑法制度と整合可能な立場であると受け取られがちであるが、実際は自由意志懐疑論にも十分な整合可能性のあることが明らかとなった。
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