本研究は、近時、英語圏の自由意思論・刑罰正当化論において存在感を増しつつある「自由意思懐疑論(Free Will Skepticism)」について、その現代における代表的な支持者であるGregg D Carusoの主著であるRejecting Retributivism (CUP, 2021)の分析を進めるとともに、刑事責任論の基礎理論に関する英語圏の基本文献を複数訳出した。その結果、現在のわが国の刑法学では両立論のみが刑法制度と整合可能な立場であると受け取られる傾向にあるが、実際は自由意志懐疑論にも十分な整合可能性のあることが明らかとなった。
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