研究課題/領域番号 |
22K20105
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
松本 未希子 桃山学院大学, 法学部, 講師 (00961343)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 行政法 / 中国法 / 法人 / 国家法人論 |
研究実績の概要 |
2023年度は、国家法人論の受容ないし拒絶という観点から日中比較を行った。日本については、国家法人説の通説的地位を確立した美濃部達吉の議論が、国家が団体であることの論証を主な関心ごととしており、団体としての国家が法人とされる根拠について十分に論証していなかったことに着目し、団体が法人となる理論的根拠を民事法学の議論を参照して検討した。中でも、福地俊雄による法人研究は団体が法人となるまでの社会的なメカニズムの解明を試みており、このような議論の妥当性やそれがどこまで公法学や行政法学に応用できるかを検討することが今後の課題として示された。中国については、国家法人説を否定する論拠の一つとなっている機関法人制度について、それがソ連法の影響を受けたものであることが、立法過程の資料をもって確認することができた。そこで、そもそもソ連がなぜ機関法人制度をとることとなったのかを、日本のソ連法研究を参照して検討した。そこでは、計画経済という経済体制が機関を法人とせざるを得ない状況を作り出していることが伺え、中国ないしは社会主義諸国における国家法人説の否定が単なるイデオロギー的なものではなく、経済体制のあり方と深く関連していることが一定程度示された。しかし、具体的にどのようなメカニズムで関連しているかは、今後さらなる検討が必要である。以上の検討から、国家法人説をとる日本においてもそれを否定する中国においてもともに国家や行政機関の法人格のあり方が社会や経済と密接に関係していることが示されたが、それは私法におけるそれと比していかなる特色を有するのか(あるいは有しないのか)を明らかにしていくことは、本研究の残された課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
法人格の性質に関する検討に時間を要し、当初の検討課題であった中国の村民委員会や居民委員会といった基層群衆性自治組織の法人格に関する分析(法人格の付与が両組織の自治の保障にいかなる意味を有するか等)がまだ行えていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、計画経済と市場経済という経済体制の違いが行政機関や国家の法人格のあり方にどのように関連しているかをより一層明らかにすることが課題である。そのため、第一に、ソ連の計画経済体制下での議論を参照しつつ、それが計画経済体制下の中国にいかにして受容されたかや、中国のその後の市場経済化でそれがいかに変容を求められているのかを分析する。そして、第二に、資本主義の日本において、民事法学における法人論と行政法学ないし公法学における法人論とはいかなる点が共通していて、いかなる点に相違があるのかについて考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究会等のオンライン化が進んだことによって、当初予定していた旅費の支出が抑えられた。これらは、次年度の研究会参加費用及び資料収集費用にあてることとしたい。
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