研究課題/領域番号 |
22K20106
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
山田 浩成 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター環境・資源研究グループ, 研究員 (70966184)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 環境そのものの損害 / 環境修復 / 原因者負担 / 公共負担 / 中国 |
研究実績の概要 |
本年度は、中国における環境修復の原因者負担の現状を明らかにするべく、文献調査や事例の収集・分析を行い、次のような成果を得た。 (1)中国における原因者負担と公共負担について、それぞれの概念や両者の関係について検証した。まず、中国の環境法において原因者負担原則に対応するのは「損害責任原則」であり、環境修復の実施や費用負担もこれに基づくとされる。環境修復にかかる費用の公共負担については、明確な法的根拠は見当たらず、国家が環境の質について負う包括的責任(憲法)や財政的投入の推奨(環境保護法)によって正当化されていると思しい。しかし、原因者による負担が原則とされているものの、どのような場合に例外として公共負担が認められるのかは示されておらず、これが公共負担による環境修復が行われる余地となっている。 (2)賠償金の修復への投入および(3)原因者負担の割合については、環境修復を命じた判決書や記事を収集し、その一部について分析を行った。賠償金は修復のための資金として、様々な主体(検察院、裁判所、政府の財政部門、財団)によって受領・管理され、修復に用いられる。判決書や記事からは、順調に修復が行われた事例がある一方で、資金を巡って様々な問題が生じていることが見て取れる。例えば、資金の使用手続きが未整備であること、必要以上に煩雑であること、修復資金の目的外使用、効果の観点から適切か疑わしい方法の多用(魚の放流)などが挙げられる。 以上のように、2022年度は原因者負担と公共負担の関係や修復の実施における問題を明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症拡大により渡航が制限されていたため、2022年度は中国での現地調査は断念し、収集済みの文献やオンラインで手に入る資料を使って研究を進めた。原因者負担と公共負担の関係については概ね完了した。さらに2023年度に実施を予定していた環境修復の事例の収集と分析を前倒しして進め、修復の実施段階でどのような問題が生じているかを把握できた。公共負担の事例については、断片的な資料しか見つかっておらず想定より遅れている。現時点までの成果は一橋法学に論考として投稿し、掲載されるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
環境修復を命じた判決書は概ね入手できているため、引き続き賠償金の金額や算定方法、修復の実施などについて集計や分析を行う。当初は環境修復にかかる費用全体のうち原因者がどれほど負担しているかを算出できないか検討していた。しかし、現時点までに集まっている事例のうち、環境修復の計画や実施報告が公表されている場合はごく一部であり、残りの期間のうちに情報公開が進行することは見込めない。したがって、これらの事例に限定して原因者負担の実現度合いを測る。同時に、環境修復について実施計画の策定や事後評価の仕組みが整えられていないことも制度上の問題として指摘する。政府が費用を負担している場合(公共負担)については、中国環境年鑑に近年の事例が複数挙げられていたため、これらについてより詳細な資料を収集していく。 成果については学会、研究会での報告および雑誌論文の形で公表する予定である。また、集計したデータについてはウェブサイトなどアクセスしやすい形で公開することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、渡航が制限され旅費を支出できなかったため次年度使用額が生じた。2023年度に中国での現地調査の費用として使用する予定である。
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