研究課題/領域番号 |
22K20106
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
山田 浩成 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター環境・資源研究グループ, 研究員 (70966184)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 環境修復 / 原因者負担 / 汚染者負担 / 公共負担 / 土壌汚染 / 環境再生 / 環境損害 / 中国 |
研究実績の概要 |
今年度は特に土壌汚染の除去等における費用負担のあり方に注目して調査・研究を行った。特に土壌汚染の除去などに注目した理由としては、(1)中国において「環境修復」と総称される様々な取り組みのうち、特に土壌汚染防止・対策での制度構築が盛んなこと、(2)参照可能な事例が得られる見込みがあること、が挙げられる。 中国における土壌汚染とその防止対策の概況は以下のとおりである。中国では従来から農地を中心として汚染防止が行われてきたが、農産物への二次汚染が生じたことで土壌汚染問題に注目が集まり、実態の把握と事後対策の強化が求められるようになった。初の全国規模の土壌汚染調査(2014年公表)では、調査対象地の約16%、農地に至っては約19%で何らかの基準値超過が生じていることが明らかになり、人の健康や環境への深刻なリスクとして受け止められた。こうした経緯から2018年に土壌汚染防止・対策法が定められ、費用確保や管理・運用に関する制度構築が進められている。 今年度の調査研究で明らかになったのは以下の4点である。(1)現行法上、土壌汚染の防止・対策義務は原則として汚染者にあるが、特定不能な場合には現在の土地使用権者に対策の義務が課される。土地使用権が政府に返還されている場合には政府が対策を行うとされている。(2)公共負担の場合には中央政府から地方政府に分配される「中央専用資金」と省レベル政府が主導で出資・設立する「土壌汚染防止・対策基金」の2つの経路で費用が賄われている。(3)中央専用資金の使途は調査、防止、対策(修復を含む)と多岐に渡り、中には企業の設備更新のための補助金として給付されたと思しいケースも見られた(河北省)。(4)省レベルの防止対策基金は地方政府と国有企業が中心に出資、設立しており、彼らが主導する都市部での不動産開発やグリーン産業育成といった成長戦略の一環をなしている(江蘇省)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は土壌汚染に絞って費用負担のあり方を集中的に調査・研究を行った結果、特に公共負担がなされる場合にどのように費用が確保され、投入されているのかについて詳細な検討ができた。特に土壌汚染防止対策における「中央専用資金」と「基金」の2つは「環境修復」において公共負担が幅広く、制度的に行われていることを示す事例として有用であるほか、さらに詳細な地域ごとの「資金」や「基金」の運用に関する資料(地方政府の公式文書、出資企業の報告書、報道等)も得られている。これまでの研究では訴訟、交渉、汚染者賦課金といった原因者負担を実現するための法制度(経路)についての議論が大半を占めてきたことを考慮すると、公共負担のあり方を詳細に明らかにするうえで主要な経路が特定され、有用な事例が得られたことの意義は決して小さくない。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は以下の3つの点に留意しつつ研究を実施する予定である。(1)土壌汚染防止・対策の公共負担に関するより多くの事例調査。本年度の終了時点で詳細な情報を得られているのは河北省、江蘇省、江西省に限られている。他の省でも「中央専用資金」の分配に関する文書の公開や「基金」の設立が進んでいるため、これらの資料を継続的に収集し、より中国全体での状況を把握するように努める。(2)成果の公表。土壌汚染防止対策における公共負担の現状については学会報告または研究論文として公表するべく準備を進めている。(3)研究全体の総括と将来の研究への接続。最終年度を迎えることから、こうした環境修復を巡る法制度の現状と課題というより大きな視点から原因者負担と公共負担を論じるような形で総括するとともに、費用負担に関する議論と気候変動やエネルギーを巡る議論との接点を模索し将来の研究につなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の使用額の多くを占める旅費に関しては現地調査の実施が困難であることに起因する。ゼロコロナ政策が終結したため複数回の現地調査を見込んでいたものの、中国政府の日本人旅行者に対するビザ免除が再開されず、現在まで研究者が渡航するにあたっては交流ビザの取得が必要な状況が続いている。交流ビザの申請には受け入れ機関の招聘状を要するものの、中国政府は外国人研究者への警戒感を強めており、大学・研究機関も招聘状の発行に慎重になっている。そのため、何らかの共同研究を行っているか、相当の信頼関係がなければ招聘状を得られない。今年度中に招聘状を得られたのは1度、かつシンポジウムの前後数日のみであった。また、その他に計上されているデータベース利用料は年度をまたぐ契約であるため、利用料の半額のみが本年度の支出に記入されている。 来年度も中国での現地調査実施は困難と見込まれるため、中国から研究者を招聘する費用に充てる予定である。
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