研究課題/領域番号 |
22K20123
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
十河 和貴 立命館大学, 立命館アジア・日本研究機構, 研究員 (50962643)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 日本帝国政治史 / 責任内閣制 / 拓務省 / 政党内閣制 / 挙国一致 / 満洲 / 外務省 / 国際協調 |
研究実績の概要 |
2022年度は、帝国日本の政治構造を包括的に理解するための一貫として、植民地行政の統括官庁であった拓務省を中心に分析を行った。そこでは特に、①拓務省の成立過程における植民地および海外行政の統合構想の分析、②1933年~1934年に生じた満鉄改組問題における拓務省の活動が持つ意味について分析を行った。その結果、①’ 第一次世界大戦後の国際状況への対応をめぐって外務省と植民地行政、現地領事のそれぞれの間に深刻な意見上の差異が存在したこと、およびこうした植民地・海外における複雑な問題と、日本国内における権力分立状況の間には相互連関性がみられ、これらの問題の一挙解消を目的として拓務省が構想されたことを明らかにした。②’こうした性質をもつ拓務省が、「満洲国」の建国以降満洲への影響力拡大に積極的になった結果、陸軍(関東軍)との間に深刻な対立を惹起したことを明らかにすることで、従来はあくまで「外部」であった満洲行政が、1932年以降日本帝国「内部」の問題となったことで、内閣の機構再編にまで拡大したことを示した。 以上の研究成果の意義および重要性は、下記の通りである。まず、拓務省の分析は、外交、政治、経済、国際関係など、隣接諸分野に波及し得る広い射程を持つものであることが明らかとなった。近年、外交史研究、植民地史研究、政治史研究ではそれぞれ重要な成果が上梓されているが、相互の対話が十分になされているとは言い難い。本研究は、こうした現状を打開し、相互理解を深め得る点において意義をもつ。さらに、本研究課題の目標である、植民地領域が日本国内の政治状況に及ぼした影響について明らかにし得たことは、1930年代における陸軍の政治的台頭過程への新たな理解を示す点において重要な意味を持つと考えている。なお、①の成果は、英語で論文を執筆し、査読を通過しており、本年度中に掲載される予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究成果は、当初の予定以上の成果を得たと考える。その理由は、端的に言えば、申請当初の計画以上に、拓務省を分析することが広がりを持つものであることが分かったからである。とりわけ、外務省組織の限界性を克服する射程から構想された拓務省は、国際協調と帝国拡張の交錯地点における問題を如実に浮かび上がらせる好素材であり、新たに国際関係を自身の研究上の重要問題として論に組み込むことができたことは、大きな成果であった。 さらに、1930年代以降は満洲をめぐる陸軍との熾烈な権力抗争へと発展することが明らかとなった。それゆえ、戦前日本における統帥権の問題、「独立国家」の理念と植民地統治上における深刻な矛盾、といった、近代日本を考えるうえで重要なポイントとなる問題に、一石を投じる可能性を見出すことができたことは、当初の想定以上の成果であった。 また、これらの研究成果を、英語で発信できていることも、予想を上回る成果といえる。英語での口頭発表を数度行い、英語論文の形で発表することで、研究成果を海外へと発信することは、日本政治史研究の重要性を世界に向けて発信することにつながる。 ただし、隣接他分野に広がりを持つ議論であることが分かった半面、外交史や軍事史の成果、および英文の研究成果をいまだ十分に把握しきれていないため、今後さらに幅広い研究成果の把握に努める必要がある。とはいえ、植民地統治と日本政治の相互作用に留まらず、国際関係上における外交問題と軍事問題への波及性が十分に見込めることがわかったことから、本研究が当初の計画以上に進んでいると自己評価できると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究には、依然大きな課題が残されている。それは、本研究課題の最終的な目標である、責任内閣制の原理から決定的に乖離する制度的統合機関である内閣審議会の成立について、いまだ明確な論理が打ち出せていない点である。さらに、その過程では、2022年度に明らかにした、満洲行政をめぐる問題との相互連関性の解明という大きな課題も残されている。これらを明らかにするためには、政党(特に立憲政友会)や貴族院などの議会の動向、そしてメディアや言説空間についての検証も必要となる。また、当初予定していた植民地期朝鮮については、いまだ十分な論を打ち出せていないため、これも次年度の重要な課題となっている。 以上の課題を達成するためには、新聞や雑誌史料の網羅的な収集と読み込み、そして内閣審議会を設置した岡田啓介内閣の政治構造や諸アクターの分析が不可欠である。そのうえで、海外の国際状況や陸軍の動向、国内経済状況などを精確に把握するべく、先行研究の読み込みに加え、国立国会図書館、国立公文書館をはじめとした一次史料の収集に注力していく予定としている。これについては、4回の長期東京史料調査を行うことで、さらなる論の補強を行う計画としている。さらに、各地方の自治体史にもいくつか貴重な史料を発見しているため、これらの収集・読み込みも必要となる。 なお、これらの作業によって得られる研究成果は、引き続き英語を中心とした成果発信に努める予定である。本年度も英語論文としての投稿を考えており、学会発表も積極的に行っていきたい。また、現在単著の出版に向けた準備を進めており、本研究課題で得られた成果の一部をそこで発表する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね計画通りに研究費を執行したが、当初想定していた人件費を使用しなかったことで、次年度使用額が生じた。また、大学図書館における多額の複写を想定していたが、無料のデータ保存が可能となったことから、複写費用が当初想定していた額よりも大幅に下回ったことも、大きな要因である。 ただしその一方で、外交史分野を始め研究の幅が広がったこと、および洋書の購入が増加したことなどから、物品費が当初の想定よりも大幅に上回っており、この傾向は次年度においても継続することが予想される。そのため、次年度使用額分はすでに4月までに消費しており、おおむね計画通りに進行しているといえる。5月以降、書籍購入と旅費を中心に経費を執行し、全額消化する予定である。
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