本年度は企業と家計がそれぞれの取引数量の期待の下で意思決定をし、それぞれの結果による財の需給のギャップが在庫を変動させるモデルを作成した。具体的には企業はこれまでの売り上げ数量と現在庫数量から今後の期待売り上げを計算し、目標在庫量を決定することで生産および雇用を決定するとした。一方で家計は現在の雇用による所得から将来の所得の流列を予想し今期の消費を決定するとした。これらは標準的な動学的最適化問題によって定式化されるが、各主体が独立に意思決定を行うため財の需給の乖離が発生する。これにより予期しない在庫変動が引き起こされ、さらに変動した在庫が企業の目標数量と乖離することで企業の生産計画が修正され、各経済変数に循環的な変動を起こしうることを理論モデルにより確認した。さらに米国の集計データを用いてシミュレーションを行い、戦後アメリカの雇用・在庫・産出の経済変動の循環部分の大きさおよびラグを平均的には再現しうることを確認した。ただし、特定の期間の変動を再現できないため、これを修正するにあたって企業が売上数量の将来経路をふまえて意思決定するように設定すれば解決しうることと、この計算には数値計算にて線形近似でなく非線形性を考慮する必要があることを確認した。 この研究は第71回経済理論学会大会の分科会(英語セッション)にて途中報告し、コメントを反映させて英語論文"Perceived and expected quantity constraints in inventory dynamics"を完成させた。 当該論文はMPRA Papersにてワーキングペーパーとして公開している。加えて、査読付き国際学術雑誌に投稿中である。
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