最終年度においては、これまでに手収集した専門家の利用の有無に関するデータをもとに、分析を実施した。具体的には、上場企業を対象として、監査事務所側で専門家が利用される決定要因、および、専門家の利用が監査報酬に与える影響についての分析をそれぞれ実施した。分析結果をとりまとめ、国内の学会において発表を行った。 決定要因については、監査人がある企業の監査を過去に実施している期間が長いほど、監査人が有する企業固有の知識が多いと想定し、監査人が企業固有の知識を多く有するほど、専門家を利用する可能性が低くなるという仮説を提示した。おおむね、この仮説を支持する結果が得られている。また、監査事務所が有する産業専門性と専門家の利用に関する関係についてもあわせて検討している。監査報酬については、他の特徴をコントロールしたうえで、監査事務所側で専門家が利用されている企業では、そうではない企業と比較して、監査報酬が高くなるかという点を検討した。全体的な傾向として、監査事務所側で専門家を利用している場合の方が、そうではない場合に比べて、監査報酬が高いことを示唆する結果が得られた。 本研究は、監査上の主要な検討事項に記載されている内容から、専門家の利用の有無という監査手続に関する重要な変数を作成している点に特徴があると考えられる。 研究期間全体では、前年度においては、先行研究のレビュー、監査上の主要な検討事項に関するデータベースの作成、専門家の利用に関するデータの手収集を行い、最終年度においては、分析結果をとりまとめ、学会発表を実施している。現在は、学会発表で得られたコメントをもとに、得られた結果の頑健性の確認、および、文章の修正などを実施している。研究期間中に論文を投稿することができなかったため、今後、論文を投稿できるように努めたい。
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