研究課題/領域番号 |
22K20141
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
石川 清貴 駿河台大学, 経済経営学部, 講師 (90962431)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | COVID-19 / 外食 / 経済波及効果 / 生産ネットワーク / サプライチェーン |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス感染拡大前の産業連関表(総務省「平成27年(2015年)産業連関表」;経済産業省「平成17年(2005年)地域間産業連関表」)を利用し、外食産業の最終需要の減少(2020年度の対前年度比)が食品製造業等のサプライチェーンの川上に位置する産業に与える波及効果を推計した。通常の後方連関(産業連関表における取引関係を介して最終需要の変化が経済全体に与える影響)に加えて、ネットワーク理論を応用した非線形の影響を推計し、波及に範囲と程度を比較した。
外食につながる生産ネットワーク(経済主体間の投入・産出関係の集合を指す)に位置する農林水産業および食品製造業にとって、都市圏の外食産業に代わる顧客(例えば、行動制限に伴い需要が拡大した食品小売等)との取引可能性は、輸送費と生産物に対する顧客の嗜好に左右されると考えられる。これらを考慮した生産ネットワークをモデル化し、外食産業の需要減少による波及効果を推計したところ、輸送費による移動の制約が強いほど川上産業への影響が小さいことがわかった。これは、特定の地域内で流通する食品ほど都市圏の最終需要の減少による影響を受けにくいことを意味する。また、食品に対する嗜好の異質性を考慮した場合にも同様の傾向が見られた。すなわち、流通における地域性が強いと仮定するならば、顧客である都市圏の外食産業の需要を失ったとしても、関連する食品産業への波及は最小限であり経済的な回復も早いことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染拡大前の産業連関表(総務省「平成27年(2015年)産業連関表」;経済産業省「平成17年(2005年)地域間産業連関表」)を利用し、外食産業の最終需要の減少(2020年度の対前年度比)が食品製造業等のサプライチェーンの川上に位置する産業に与える波及効果を推計した。通常の後方連関(産業連関表における取引関係を介して最終需要の変化が経済全体に与える影響)に加えて、ネットワーク理論を応用した非線形の影響を推計し、波及に範囲と程度を比較した。研究実績の概要にある通り、理論的には、地域経済圏において自給的なサプライチェーンを形成する食品産業は外食産業に生じた最終需要の減少による影響に対してレジリエントであることが予測された。なお、感染拡大期の産業構造を反映した2020年産業連関表は現在作成中であることから2015年表を用いて予測を行ったが、この結果と実際の食品製造企業の行動との整合性を検証するため、次に企業レベルのミクロデータを用いた実証を行う。
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今後の研究の推進方策 |
食品サプライチェーンにおいては、産業クラスターや同じ地域で生産された中間財投入の割合が高いことが実証されており、これは輸送費による移動の制約や地場産に対する消費者選好の下での食品製造業の産業立地に起因している。企業の取引関係というミクロ経済的な構造から考えるならば、新型コロナウィルスの感染拡大下において飲食業の川上に位置する食品製造企業が取引関係を柔軟に調整できることは、テールリスクに対する地域経済圏のレジリエンスを示唆する。また、企業レベルの視点に立ち、産業レベルにおける投入・産出構造に対応する生産ネットワークの変化を観察することは、より具体的かつ有効な政策的含意を得る上でも重要である。そこで、東京商工リサーチが提供する企業相関データから飲食業と直接あるいは間接に取引関係のある企業を抽出し、感染拡大の前後における売上額の変化をその企業の取引先地域(i.e., 同じ地域/他の地域)および取引関係に応じた距離(i.e., 直接の顧客/顧客の顧客)で回帰する。これにより、特定の地域経済圏において自給的なサプライチェーンを形成する群に対し、首都圏などの大消費地に供給する外部依存的な対照群を比較して波及効果の検証を行う。得られた結果をもとに、波及効果の空間的な範囲とサプライチェーン上の縦深性という観点から、未曽有の需要ショックに対して頑健で回復力のある産業構造の諸条件に言及し、これを政策的含意としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の請求額において、物品費(1,000,000円)は研究遂行に必要となるデータセット購入費用(東京商工リサーチ「企業相関データ」)として計上していたが、仕様決定から発注までに時間を要すること、また、年度をまたぎ複数回に分けて発注するよりも次年度にまとめて発注する方が手数料を節約できることから、次年度使用額とした上で、翌年度の請求額と合わせて発注することとした。なお、使途は当初の予定通りである。
旅費(100,000円)については、研究の進捗状況により、当該年度中の学会発表等を見送ったことから使用しなかった。次年度使用額とした上で、翌年度の学会発表において支出することとしたい。
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