本研究の目的は,上場企業によるディスクロージャーと株主総会での議決権行使を通じた株主のガバナンスとの関係について明らかにすることにある。株主の議決権行使がもたらす企業行動への含意については,株式売買の行動等に比べ証拠の蓄積が乏しい。特に,議決権行使を「情報開示」という枠組みから分析した研究は極めて少ない。研究期間全体を通じて,以下の成果が得られた。 第一に,株主提案に関するデータの収集や購入データベースを組み合わせ,株主提案の影響に関する実証分析(共著)を行った。本論文はペイアウトに関する株主提案の提出が容易に行える日本の制度環境に着目し,当該提案が特に2013年に始まるガバナンス改革以降の期間において配当政策に有意な影響を与えることを示唆する結果を得た。本成果については,査読付きの国際学会で報告を行い,現在は査読付き国際雑誌への投稿準備作業を行っている。 第二に,本研究期間において進めていた論文が公刊された。日本企業を対象に,株式の流動性が現金保有行動に及ぼす影響に関する論文(共著)を執筆し,Pacific-Basin Finance Journal誌のPre-registered Reportとして受理・公表された。 第三に,議決権行使に関する新たな研究アイディアを草稿にまとめた。株主総会決議事項である剰余金の処分には,任意積立金の設定(繰越利益剰余金の増減)も含まれる。会社法上は任意積立金も繰越利益剰余金も配当可能性という観点で扱いは同じであるにもかかわらず,日本企業では任意積立金を設定する実務が普及している。本論文では,その背後にあるモチベーションを明らかにするための分析を行った。現在,本成果については,学会や学術誌への投稿準備作業中である。
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