研究実績の概要 |
2023年度は前年度までに得られた成果を拡張するとともに、論文の作成を行った。前年度までの研究により、日本のセメントカルテルのデータは、独占モデルでも競争均衡モデルでも描写できないことが分かった。そして独占モデルは、競争均衡よりもモデルのフィットが悪いことが分かっている。このような独占の正当化が難しい状況で、カルテルによる価格上昇と消費者厚生へのダメージをバウンドとして得る推定をおこなった。またこの推定は従来の点推定と異なり、検定や信頼区間の構築に重大な問題を生じさせる可能性がある。それへの対処を行った。
より具体的には、パラメータの識別集合のサポート関数のインファレンスに通常のブートストラップを直接適用すると、間違った推論をする可能性がある。この可能性に対処するために、Lee and Bhatacharya (2019, Journa; of Econometrics)の方法とdata-jitteringによる離散変数の連続変数化による方法を組み合わせた方法を実装している。
論文自体の執筆は進み、初稿を欧州産業経済学会(EARIE)での2024年度の報告に申込み採択された。今回の研究は企業行動の検定のリテラチャーにおける操作変数の役割を、区間データ回帰分析に応用させる研究となっている。区間データ回帰分析における操作変数の利用は応用例が少なくとても新しく、この2つのリテラチャーを統合する直観的説明を行うのに難航している。論文を修正し国際学術誌へ投稿するレベルに到達するまではしばらく時間がかかると考えられる。
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