本研究は労働者のタスク選好と割当の間のマッチングと労働行動の間の関係を、リアルエフォートタスクを使用した経済実験により考察するものである。2022年度に引き続き2023年度も、コペンハーゲン大学経済学部トーマス・マークセン教授と、文献整理・考察・理論分析を行うとともに経済実験を行い意思決定データを収集することで仮説検証を行った。2年の研究成果として、優れた実験設計により、当初の計画以上の成果が得られた。まず、当初の計画ではマッチングの効果のみに焦点を当てていたが、それに加え、企業(雇用者)が労働者(被雇用者)と結ぶ契約形態について、完備契約と非完備契約のどちらを経済主体が選択するか契約選択の側面も併せて考察した。契約選択は組織の経済学や企業論での大きな研究題目であり、筆者とマークセン教授の認識では、本実験は文献で初めての試みである。 実験の全てのトリートメントで企業は、労働者との契約形態(非完備、完備)と賃金を選択する。経済実験は2x2の要素間計画で遂行した。1つ目の要素はタスクの違いである。労働者に割り振られるタスクの候補が似たような2つのタスクか、難易度が大きく異なる2つかの別である。実験で雇用者は、2つのうち1つを被雇用者に割り振る。2つ目の要素は、契約として雇用者が労働者にパフォーマンスに応じた賞与(ボーナス)を付与できるか否かである。2022年度に賞与の可能性がない2つのトリートメントの実施から開始し、2023年度終わりまでに各トリートメントの実験を実施した。今後は得られた意思決定データを基に上位国際ジャーナルへの公刊を目指す。 なお、全ての経済実験は専用ソフトウェアであるzTreeによってコンピュータ・プログラム化し、経済学における研究規範に準拠した実験プロトコル(例:被験者に嘘は一切つかない)のもと、コペンハーゲン大学の経済実験室で同大学の学生を用いて行った。
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