本研究課題の問題意識を派生させた研究2点が英文査読誌に掲載された。一つ目は自社にとって財務関連性が高い環境課題への取り組みが不十分な米国の企業は、環境にかかわる投資リスクがあると認識されている傾向があることを示した論文である。二つ目はSDGs達成に積極的な自治体に工場を立地している企業ほどCSR活動に積極的であることを示した論文である。前者は財務的に関連しないCSR活動に資源を割いてしまう企業がいることの裏返しでもあり、後者はSDGs推進という社会的潮流の中で地域社会との摩擦が経営に関連していることを示唆している。いずれも、サステナビリティに関する企業と社会の摩擦と、企業価値の追求という利害対立に企業がどう向き合うかという本研究課題の問いに対して重要な示唆を与えると考えられる。 最終年度はESG開示情報の評価について進展が見られた。S&P500のうち時価総額上位150社を対象に2016年以降のサステナビリティレポートのテキストデータを収集し、GPT-4を用いてその可読性を評価した。当研究の重要性の一つは、新しい視点で開示文章評価を試みた点にある。先行研究のテキスト分析では単語の音節数など単語レベルの特性をもとに文章を評価していたが、GPT-4を用いることで文脈を加味した可読性評価を試みた。さらに、算出されたESG開示情報の可読性スコアと複数の既存のESGスコアを回帰分析することで、開示文章の読みづらさがESGスコア間の差につながっている傾向を示した。また、その背景には企業が社会的に集めている注目度の大きさがあることを指摘した。 初年度より継続しているSNSでの注目の高さに注目したESGイベントと株式リターンの関係についての研究とESGに関する無形資産の分析については、研究の学術的な貢献を整理しつつ、複数の学会・研究会で発表をするとともに、英文査読誌に投稿している状況である。
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