研究課題/領域番号 |
22K20184
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 瑛 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (80966268)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 真正性 / ジャーナリズム / 民主主義 |
研究実績の概要 |
本研究では、メディアをめぐる従来の二項対立的な区分(公/私、事実/虚構、報道/娯楽)が曖昧化する現代社会において、「真正性」(authenticity)がジャーナリズムを含むメディア実践全般を正当化する重要な要素であることを示し、それがどのように構成されているのかを社会学的視座から明らかにしていく。「ポスト真実」や「メディア不信」をめぐる議論が示唆するように、「真正性」は「本物らしく、自然に感じられるのか」をめぐる価値基準としてポピュラーに幅広く受容されており、ジャーナリズムが掲げてきた規範性や事実性などの職業精神を相対化してしまっている。本研究ではこのような問題に対応すべく、むしろジャーナリズムはどのように「真正性」を共創できるのかを明らかにしていく。 ジャーナリズムの専門職性も受け手との相互作用から成立する「真正性」を軸とした抜本的な転換が求められていると考えられる。ジャーナリズムが「真正性」をどのように共創するのかを考察するためにも、実際のジャーナリズムの送り手や受け手が何を「真正」と感じているのかについての認識を調査した上で、現代社会において「真正性」の共創が追求される理論的背景に加え、それが民主主義的規範とどのように接続され得るのか(され得ないのか)をめぐる考察と結び付けることが望まれる。こうした研究は、ジャーナリズムの規範と実態をめぐる議論がそれぞれ乖離している状況を架橋するものとして位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は「真正性」の理論的視座を整理するところから始めた。2022年10月に論文「オンライン空間との相互作用による「真正性」の共創に向けて」を『放送メディア研究』15号に寄稿、2023年3月に論文「真正性の政治とジャーナリズム――ポピュラーな正当化の可能性と矛盾の考察」を『メディア研究』102号に寄稿し、「真正性」がジャーナリズムの送り手と受け手の間の信頼関係をもたらすものとして競われている状況を理論的に示した。また、2023年3月に論文「AIと共存する民主主義的主体に向けて」を東京大学B'AIグローバル・フォーラム、板津木綿子、久野愛編『AIから読み解く社会――権力化する最新技術』(東京大学出版会)に寄稿し、「真正性の政治」をめぐる主体性の問い直しに接続した。また、若手ジャーナリストを対象とした調査に着手しており、現代のメディア環境の中でどのようなパフォーマンスが真正性の構築のために求められているのかを当事者の視点から考察している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては若手ジャーナリストを対象にして「真正性」をめぐる認識について仮説探索的なインタビュー調査を実施する。現時点での課題として、ジャーナリズムの個人主義化が進行する中で、キャリアの浅い送り手は取材やオーディエンスとの相互作用において、どのように自己を理解しているのかについて探る必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表やインタビュー調査の旅費を計上していたが、今年度は調査の基盤となる理論の整理や調査計画に集中したため、次年度に使用することとなった。
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