本研究では,保育者確保のための職場定着という現代的課題の解決に寄与することを目的に、①リーダーシップ研究の系譜,及び学校や保育組織のリーダーシップ研究に分散型の概念が応用された背景について先行研究を整理し,これまでの実証的研究に使用されてきた具体的な調査枠組を捉えた.②上記から導出された調査枠組みを用いて,取得したデータ(園長とその保育組織で働く保育者からのアンケートの回答)をもとに,園長・所長によるリーダーシップ行動と個々の保育者の定着指標との関連を検討した.その際,個人の属性や給与満足度を調整変数として考慮したマルチレベル分析を行うことで,園長・所長による組織レベルの分散型を指向したリーダーシップが,保育者個々の職場定着に及ぼす影響を明らかにした. ここまでの研究で、保育組織が分散型を指向するための園長・所長のリーダーシップ行動の保育者・職員の定着に及ぼす影響力はある程度の解明が進んだ。しかし、分散型リーダーシップによる効果を明らかにするためには、組織の内部でリーダーシップが分散化された状況の総和を捉える必要がある.そこで,本年度は③の目的・方法に基づいて,組織の分散化を指向する点で類似性が指摘されてきたリーダーシップ概念である,変革型,インクルーシブ,シェアド・リーダーシップと分散型の弁別性を先行研究の整理によって明らかにした.それを踏まえ,分散型リーダーシップの実証的(暫定)定義とそれに基づく研究手法の解明に着手している.その研究プロセスは,2023年12月「日本乳幼児教育学会第33回大会」(於:名古屋市立大学)での口頭発表、及び『日本乳幼児教育学会第33回大会 研究発表論文集』(pp.230-231)にて公表した.この研究で残された課題は,基盤研究C(課題番号24K00472)にて引き続き、分散型リーダーシップを捉える指標、調査・分析方法についての検討を行っていく.
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