本研究では、認知メタファー理論の知見を基に、文化財保存修復概念が、しばしば比較対象として引き合いに出される医療の概念を通じていかに形成されてきたかを追求した。保存修復学文献中にみられる「修復家は文化財の医者である」などの医療のメタファーの量的・質的分析を行った。結果、保存修復の役割は医療の比喩に基づいて善行として解されてきたと結論づけた。一方で比喩は、利害関係者間の調停や交渉といった、現代の保存修復実践において重要な役割を説明するには不十分であった。ただし、近年の医療概念の変化に鑑み、エンド・オブ・ライフ・ケアといった概念を取り込むことで修復の豊かな側面を説明できる可能性があることも示した。
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