2022年度の研究では、おもに関西圏の複数の聴覚(特別)支援学校を訪問し、高等部の授業観察とフィールドワークを行った。その結果、聴覚(特別)支援学校高等部の生徒の中には、他の言語的マイノリティと同じように日本語への苦手意識をもつケースがあることを確認した。2023年度は、引き継ぎ、関西圏の複数の聴覚(特別)支援学校高等部の授業観察とフィールドワークを行いつつ、インタビュー調査も実施した。具体的には、聴覚(特別)支援学校高等部の卒業生が社会の主流言語である日本語に対して何を感じ、どのような言語的バリアを経験しているのかを聞き取った。インタビュー対象者は、社会人1年目の卒業生2名と、大学3回生の1名、計3名である。インタビュー調査は、調査者が手話で実施し、事前に許可を得たうえで録画した。録画した会話データは、調査者が日本語に文字起こしし、聴覚(特別)支援学校を卒業した手話話者の大学院生にチェックを受けた。 インタビューデータの分析の結果、日本語に対する様々な認識や葛藤が確認された。例えば、多数である聴者との人脈を作るために日本語が必要だと感じている例がある一方、仕事で使用する独特なビジネス文書の扱いに困る例、敬語の使用に難しさを感じる例などが確認された。また、漢字の読み方がわからないと恥ずかしいと感じ、周囲から勉強していないと思われるのではないかという不安を覚えているケースがあることもわかった。
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