本研究の目的は、子どもと教師の双方にとって、学ぶ意味を伴った市民性教育としての地理カリキュラムを共創するための方略を提案することである。本目的を達成するために、調査校(高校)において、学習目標・内容・方法・評価に関する権限を段階的に子どもたちに移行するアクションリサーチを行った。その結果、2023年度は以下の成果を得た。 第1に、学習評価に関する権限の移行について、教師の権力性の強い学習評価に生徒自身が参加することが、エージェンシーを伴った子どもたちの主体性と、学びの真正性を担保する地理学習を促進できる可能性を示したことである。定期考査問題の作題に継続的に取り組んだ高校生を対象とする聞き取り調査を実施し、その成果として「地理学習における『学習の評価(Assessment of Learning)』改革の可能性:定期考査地理Bの作題に取り組んだ高校生の語りから」を『社会系教科教育学研究』誌に掲載できた。 第2に、学習目標に関する権限の移行について、「カリキュラム・ネゴシエーション」の概念を援用し、生徒たちが学習目標の設定に関与する「問いづくり」の開発と実践を行ったことである。2022年度に試験的に実施したものに改善を加え、「人口」および「都市・村落」の単元での継続的な実践を行った。本実践は、学習目標だけでなく、内容・方法・評価に関する権限を段階的に子どもたちに移行する地理カリキュラムの共創の基盤となる可能性がある。この点については、引き続き開発と実践および質的な分析を続ける。 第3に、学習目標に関する権限の移行について、「問いづくり」の授業実践の分析結果を公表したことである。学会発表を行った後、地理学習において高校生がどのような「問い」を、なぜ「良い」と考えるのかについて、生徒たちの語りや作成した「問い」を基に明らかにした論文を執筆できた(投稿中)。
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