本研究の目的は、法的思考と交渉技能の両者を合わせて育成する教育について、教育目標・教育内容・教育方法の各方面から体系的に検討し、系統立った法教育の教育課程を構築して検証することである。2年目にあたる今年度は、以下の2点に関して研究を進めた。 第1に、1年目で実施した生徒の実態調査に基づいて、交渉技能学習の授業開発・分析を行った。その結果、次の6点が明らかとなった。第1に、認知バイアスを学んでから交渉をした方が合意しやすいこと。第2に、争点を組み合わせることが難しいこと。第3に、認知バイアスを教えてから交渉させると、立場を入れ替えても交渉結果を受け入れられること。第4に、交渉を考える際に、似た事例を探して客観的規準として交渉をさせること。第5に、交渉の進め方を話し合った生徒は、納得感が得られやすいこと。第6に、認知バイアスがあることを意識して交渉に臨むことで、話し合えた納得感が得られること。以上の6点である。 第2に、法的思考学習、交渉技能学習、法構想学習を系統的に結び付けて分析し、教育目標・教育内容・教育方法を明らかにした。「目標」については、本研究は「規範の創出で秩序を生み出す」、「規範の適用で秩序を安定させる」、「規範の変革により秩序を再構築する」ことを目指して組織されるべきであること。「内容」については、交渉技能学習では「交渉の7技能」や「認知バイアス」、法的思考学習では「要件・効果」や「利益考量」等、法構想学習では「目的・手段」等の内容が学習されるべきこと。「方法」については、交渉技能学習では「模擬交渉」によって交渉による合意がはかられ、法的思考学習では「当事者や第三者として判断」することによって法的な考え方で思考・判断する方法がとられ、法構想学習では「法制度を構想・評価・提案」する方法がとられるべきこと、の3点を明らかにした。
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