研究課題/領域番号 |
22K20265
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研究機関 | 國學院大學栃木短期大学 |
研究代表者 |
平岡 秀美 國學院大學栃木短期大学, その他部局等, 講師 (10962425)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 価値教育 / ヘルムート・ハイト(Heid,H.) / 「価値と規範」 / 宗教授業 / 哲学授業 / 倫理授業 / 「生活形成・倫理・宗教」(LER) / 「宗教・哲学・倫理」(REP) |
研究実績の概要 |
2022年度後半には、研究課題である「倫理・哲学・宗教知識に基づく価値教育への橋渡しとしての初等教育での道徳授業構想」について、主として三つの作業を進め、それぞれ研究論文としてまとめた。 具体的には、第一に、「倫理・哲学・宗教知識に基づく価値教育」について、以下の作業を行なった。すなわち、ドイツにおける1970年代初頭から近年に至るまでの価値教育の政策動向を背景にした、ハイトの価値教育批判と代替案としての授業構想について検討し、論文としてまとめた。この論文での成果を簡潔に示せば、「価値づけ」の積み重ねによって、自らの「価値づけ」を根拠を持って主張するという意味での「道徳的判断力」育成の重要性が示唆された。 第二に、「価値教育への橋渡しとしての初等教育での道徳授業構想」について、 以下の作業を行なった。すなわち、ドイツの一部の州において、日本の小学校 5 年生にあたる年齢段階である 5 年生から日本の高校 1 年生である 10 年生に至るまでの倫理・哲学授業科目で用いられてきた教科書シリーズの一つを取り上げ分析した。より具体的には、Leben lebenという教科書シリーズを、ニーダーザクセン州の「価値と規範」(Werte und Normen)のものを取り上げ、倫理・哲学・宗教に関する知識をどのように取り扱っているのかを明らかにし、論文としてまとめた。 第一、第二の課題は、本研究の中心的な検討対象である科目「生活形成・倫理・宗教」(LER)と学習領域「宗教・哲学・倫理」(REP)について捉えるための基礎となるような、周辺的情報である。そのため本年は上記の課題に取り組むと同時に、LERとREPについて、ディートリッヒ・ベンナー、ヨルグ・ラムゼーガー、ポール・シュラードット、ヴィルヘルム・ヴィッテンブルフらの所論をそれぞれ翻訳し、まとめる作業を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、研究課題に関連した査読付研究論文を二報執筆し、これが刊行されることが決定している(現在印刷中)。 具体的には、「ドイツの価値教育(Werterziehung)における『基本的価値』の取り扱いに対するハイト(Heid,H.)の批判と代替案:価値づけの『根拠の論究』を志向する教授構想に着目して」(『教育方法学研究』第19集(教育方法研究会 発行))と「ニーダーザクセン州 『価値と規範』における学年・学校段階の接続の試み:教科書Leben lebenを手がかりに 」(『國學院大學栃木短期大学紀要』第57巻(國學院大學栃木短期大学 発行))の二報である。 なお、本年度は諸般の事情でドイツ渡航は叶わなかったものの、記述の通り、本課題の研究進捗状況は、文献研究を中心とした理論的側面においても、教科書等教材分析を中心とした実践的側面においても、おおむね順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、「LERに関するドイツでの教授学的議論の蓄積を追跡し、その議論の深まりによって構想された新たな学習領域「宗教・倫理・哲学」(REP)の構想を明らかにすること」を目的とし、これにより、「宗教・倫理・哲学といった「価値」に関わる多様な諸知識を基盤とした価値教育への「橋渡し」となる、初等教育段階における道徳教育を構想すること」を意図していた。しかし、本研究が主要な研究対象とするREPはあくまでも「学習領域」であり、科目として現在も運用されているものではないという認識が、本研究課題遂行者の現状の見立てである。そのため、2022年度の研究成果によって浮き彫りとなった、実際の科目(「価値と規範」や「生活形成・倫理・宗教」)ならびに価値教育に関する政策動向との関わりを探りつつ、REPの実態を正確に把握し、それに関わる論争を整理することが2023年度の研究の推進方策である。この推進方策を実現するために、具体的には、引き続きの文献翻訳・精読に基づく論争の整理のみならず、ドイツ渡航において資料収集とヒアリング調査を予定している。
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