まず、能研テストについては次の3点にまとめられる。第1に、能研の経営状況をめぐり内部でいかなる対応が議論されていたかを、国立公文書館所蔵の資料や国会議事録を用いて分析した。結果、能研の継続的な運営のための的確かつ柔軟な対応をとれなかったという政策実施方法に関する修正の失敗も、大学入試の共通試験として能研テストが継続しなかった重要な要因だった点を新たに指摘した。この成果を、日本教育政策学会第30回大会と『教育学研究』第91巻第1号(掲載決定)で発表した。第2に、能研テストの実施要因について、政治学で用いられる「政策の窓」モデルを適用し、関係審議会の答申、議事録・配布資料や、新聞記事等の調査を基に分析した。結果、文部省・中央教育審議会と経済審議会が、大学入試政策に対する共通した問題認識を持ち、それを解決するために類似した具体的な改革案を作成できる体制が整備されていたことが重要だった点等を解明した。その成果を、『東京大学大学院教育学研究科教育行政学論叢』第43号に発表した。第3に、能研テストに関する構想の経緯を明らかにするために、大学入試改革を検討していた中央教育審議会第16特別委員会の速記録や配布資料を分析した。結果、その審議や改革案の作成において外国の大学入試制度が参照されていた点等を指摘した。この成果を、日本教育行政学会第58回大会で発表した。 次に、進学適性検査については、導入過程に関する先行研究をレビューした上で、その実施について検討していた文部省と民間情報教育局(CIE)の政策担当者の関連資料、具体的には、当時の文部省学校教育局長・日高第四郎関連文書(回顧録や「日高ノート」)とGHQ/SCAP文書を収集・分析し、進学適性検査の実施に至る文部省とCIEの詳細な交渉過程を解明した。この成果については、2024年9月の大学入試学会第1回大会で発表し、論文化する予定である。
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