研究課題/領域番号 |
22K20294
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研究機関 | 九州女子大学 |
研究代表者 |
押井 那歩 九州女子大学, 人間科学部, 講師 (30963459)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 気候正義(climate justice) / SDGs / 社会系教科 / アメリカ合衆国 / オーストラリア |
研究実績の概要 |
本研究は,SDGsの達成に向けた資質・能力を育成するために,社会系教科における気候正義教育の学習の方法論について明らかにすることを目的としている。このために,アメリカ合衆国とオーストラリアにおける気候正義教育の学習の理論,内容,方法について比較分析・検討を行う。 今年度の研究実績は,以下の2点である。1点目は,比較分析の前提となる日本の社会系教科における環境学習の現状を明らかにしたことである。気候正義教育の基盤となる「気候正義」は,気候変動をめぐる受益・受苦の不均衡とそれを発生・維持・再生産する社会システムに気候変動の問題性を見出す概念である。今年度の研究では,こうした「気候正義」の考え方に基づく社会科環境学習がこれまでの社会科教育学においてどれだけ・どのように扱われてきたのかという実態について解明した。分析にあたっては,環境問題の把握・解決のあり方を社会システムの側面から論じた「社会制御システムの両義性」論を手がかりとして検討を行った。この結果,現在の日本の社会科では,気候変動をはじめとする環境の破壊・汚染を受益と受苦の不均衡とそれを発生・維持・強化する社会システムの問題として捉える見方・考え方を育成するような学習の理論および方法については十分に検討されてきていないことが明らかになった。この研究については,既に論文化を終えている。 2点目は,アメリカとオーストラリアの気候正義教育について文献調査・資料収集を実施できたことである。特にアメリカでは,現在進行形でプログラムの開発に取り組んでいる州があることが判明し,当該州の動向などについて資料を収集することができた。また,当初研究対象として予定していた国々に先駆けて,カナダ・ブリティッシュコロンビア州で気候正義教育のプログラムが開発・実施されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のように進捗状況を判断した理由は,新型コロナウイルス感染症の世界的流行の余波により,令和4年度中に実施予定であったアメリカおよびオーストラリアでの現地調査を実施できなかったためである。この点については,令和5年度に現地調査を実施することにより補填する。 現地調査を行うことはできなかったが,文献調査・資料収集により,各国の動向に関する基礎的な資料を揃えることはできた。また,文献調査の過程で気候正義教育の嚆矢ともいえる動きを新たに捉えることができた点は非常に大きい。令和5年度は,令和4年度中に収集した基礎資料および文献調査の成果をもとに現地調査を実施し,内容を深めていく。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,以下の2点を実行する。1点目は,アメリカおよびオーストラリアでの現地調査を実施し,気候正義教育プログラムの開発・実施に関するデータを収集することである。プログラムの開発に取り組んでいる州の教育行政機関と開発に関わる教育NPOの両者に対して調査を実施し,プログラムにおいて構想されている学習の具体的方法や基盤となる理論について明らかにしていく。 2点目は,収集したデータおよび令和4年度に整理した基礎資料を分析検討し,研究成果を公表していくことである。まず,令和4年度に明らかにした日本の社会科環境学習の現状を踏まえ,現地調査のデータを分析検討する。この結果に基づいて,社会系教科における気候正義教育の学習の方法論について明らかにし,学会での発表および論文の投稿を進める。また,令和4年度中の文献調査によって明らかになったカナダの気候正義教育プログラムに関する研究成果の公開も行う。以上を計画的に遂行し,研究に遅れが出ないようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,新型コロナウイルス感染症の世界的流行の余波により,令和4年度中に実施予定であったアメリカおよびオーストラリアでの現地調査を実施できなかったためである。現地調査については,令和5年度に実施することで計画中である。
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